壁式構造は床や壁や天井を構成する耐力壁だけで建物を組み上げていく構造形式で、主に鉄筋コンクリート造の建物(マンションなど)で、この構造形式が採用されている。
具体的には、鉄筋コンクリート製の分厚い壁(耐力壁)を床⇒壁⇒天井(床)⇒壁⇒天井…といった具合に組み上げていく工法だ。
この場合、建築現場で鉄筋にコンクリートを流し込みながら耐力壁を組み上げていくケースもあるが、最近は工場で製造された完成品を建築現場に運んで組み上げていくケースが増えている。
いずれにせよ、耐力壁だけで組み上げられる壁式構造の建物には、基本的に柱や梁は存在しない。ただし、一部の壁式構造の建物では、建物全体の強度を上げるために、1階部分に梁を渡してあるものもある。
ちなみに壁式構造は、高層の建物では強度を維持することが難しいため、おおむね5階建て以下(高さ20メートル以下)の建物に取り入れられている。また、耐力壁となる木材パネルを組み上げて建てられた木造住宅、いわゆるツーバイフォー(木造壁式工法)で建てられた木造住宅も、壁式構造建物に該当する。
では、地震の揺れに襲われた時、壁式構造の建物はどのような挙動を示すのか。
耐力壁だけで組み上げられた壁式構造の建物は非常に「剛性」が高く、ガッチリしている。剛性とは「外部から曲げや捩れなどの力が加わった時に、変形が起きにくい性質」のことで、地震の際も壁式構造の建物はあまり変形することなく、建物全体が地面の動きに同調する形で揺れに耐える。
この点は、骨組みとなる柱や梁などの「しなり」や「粘り」によって地震の揺れを吸収するラーメン構造の建物(10月2日配信の前回記事参照)とは決定的に違っている。言うなれば、ラーメン構造の建物が「剛性の低さ」によって揺れに耐えるのに対し、壁式構造の建物は「剛性の高さ」によって揺れに耐えるのである。
ただし、破局は一気にやって来る。壁式構造の建物が耐震限界を超える揺れに襲われると、耐力壁という耐力壁が一気に崩れ落ち、瞬時に倒壊に至ると考えられているのだ。極言すれば、建物被害は「無傷」か「倒壊」の2つしかない、ということになる。
(森省歩)
ジャーナリスト、ノンフィクション作家。1961年、北海道生まれ。慶應義塾大学文学部卒。出版社勤務後、1992年に独立。月刊誌や週刊誌を中心に政治、経済、社会など幅広いテーマで記事を発表しているが、2012年の大腸ガン手術後は、医療記事も精力的に手がけている。著書は「田中角栄に消えた闇ガネ」(講談社)、「鳩山由紀夫と鳩山家四代」(中公新書ラクレ)、「ドキュメント自殺」(KKベストセラーズ)など。