本連載〈番外編〉の最終回は、総括の意味を込めて、地震によるリスクが最も低い建物とは何か、すなわち地震に最も強い建物とは何かに、ズバリ迫りたい。
結論から先に言えば、資産価値や耐震性など、あらゆる点で「最強」と言えるのは「壁式鉄筋コンクリート造の建物(以下、「壁式RC」と略す。RCはReinforced Concrete=鉄筋コンクリートの意。壁式構造については前回記事など参照)」である。
事実、95年に発生した兵庫県南部地震(マグニチュード7.3、最大震度7)でも、壁式RCの建物はビクともしなかったと言われている。地震工学の専門家も、次のように証言する。
「揺れの激しかった断層沿いなどでは、新耐震基準で建てられたマンションですら、大破や中破などの大きな被害を受けました。旧耐震基準のマンションも含め、大きな被害を受けた建物は、ことごとくラーメン構造(前々回記事など参照)の建物でした。ところが、同じ断層沿いに建っていた壁式RCのマンションは、例えば高度成長期に建てられた旧耐震基準の5階建ての公営団地なども含めて、ほとんど無傷だったのです」
しかも壁式RCは、兵庫県南部地震など周期の短い激しい地震波が特徴的な直下型地震に強いだけではなく、巨大海溝型地震(東南海地震など)がもたらす、周期の長い猛烈な揺れにも強いとされており、まさにあらゆる地震に対して最強の建物と言えるのだ。
また、以下の条件を満たせば満たすほど、壁式RCの耐震性と資産価値はさらに増していくとされるので、ぜひとも参考にしていただきたい。
●壁式RCといえども、旧耐震基準よりは新耐震基準の建物の方が、地震に強い
●建築現場で鉄筋にコンクリートを流し込みながら耐力壁を組み上げていく工法よりも、工場で製造された完成品を建築現場に運んで組み上げる工法で建てられた壁式RCの方が、品質の安定性や信頼性は高い
●1階部分などに補強のための梁を渡してある壁式RCは、さらに地震に強い
●高さ制限ギリギリの5階建て壁式RCよりも、4階建て⇒3階建て⇒2階建て⇒1階建てと低層になればなるほど、原則として耐震力は増していく
どうだろうか。必ずやって来る大地震から命や資産を守るためには、東京都が出した大甘想定など鵜呑みにすることなく、個々人が自分の置かれている状況をあらためて見直し、今からでき得る限りの対策を講じておくことだ。
(森省歩)
ジャーナリスト、ノンフィクション作家。1961年、北海道生まれ。慶應義塾大学文学部卒。出版社勤務後、1992年に独立。月刊誌や週刊誌を中心に政治、経済、社会など幅広いテーマで記事を発表しているが、2012年の大腸ガン手術後は、医療記事も精力的に手がけている。著書は「田中角栄に消えた闇ガネ」(講談社)、「鳩山由紀夫と鳩山家四代」(中公新書ラクレ)、「ドキュメント自殺」(KKベストセラーズ)など。