このところ、ユーミンがやたらとテレビに出ているのは、デビュー50周年アルバム「ユーミン万歳!~松任谷由実50周年記念ベストアルバム~」のプロモーションのためだ。その甲斐あってか、10月4日に発売されたアルバムは、ヒットチャート1位を驀進中である。
このアルバムには、荒井由実時代の懐かしいナンバーも多く含まれている。当時、彼女のバックを務めていた、ティン・パン・アレー(キャラメル・ママ)との感性が見事に融合した「瞳を閉じて」「海を見ていた午後」「やさしさに包まれたなら」などを聴き直すと、74年10月にリリースされた2ndアルバム「ミスリム」の、とんでもないくらいのクオリティーの高さを改めて痛感するはずだ。
流麗な旋律と新鮮な転調、鮮やかな歌詞表現など、聴く者すべてに衝撃を与えたデビュー作「ひこうき雲」から1年を待たずして発売されたこのアルバムは、まさにユーミンならではの都会的で透明感に満ちた、ソングライティングのセンスが満載。その原因は、シュガーベイブの山下達郎と大貫妙子、吉田美奈子、鈴木顕子(のちの矢野顕子)といったメンツによるコーラスワークにあった。
全10曲中、コーラスが入っているのは「生まれた街で」「12月の雨」ほか5曲だけだが、さりげなく現れてバックと絡み合うフレージングや、シンプルだがスウィートな広がりを感じさせてくれるそれは、まさに変幻自在。
中でも、ラジオリスナーだった長崎・奈留高校の女子生徒から「私達の高校には校歌がありません。校歌を作ってくれませんか」との要望を受け、ユーミンが書き下ろした「瞳を閉じて」では「まるで見てきたかのような情景が浮かぶ絵画的な歌詞」に、さらなる透明感を持たせたコーラスが。まさに秀逸のひと言だ。この歌は今でも、卒業式などで歌い継がれているという。
同アルバム発売後、ユーミンの作品はキャラメル・ママ名義から、夫である松任谷正隆のリーダーシップのもと、歌詞内容も大半がフィクションに移行。そのため、オールドファンの中には「ユーミンの弾き語りテイストは『ミスリム』まで」という声も少なくない。
70年代半ばという時代にあって、曲作りに始まり、アレンジ、演奏、コーラスがすべて一丸となった荒井由実の大傑作が、この2nd「ミスリム」だったのである。
(山川敦司)