実はタクシーの中で、疑問が渦巻いていた。夜を徹して野球談議をするのか、それとも、うまい料理でも食べさせてくれるのか。まさかQコーチ、あちらの趣味の方なのか…。
私の顔色を読んだ女将は、
「あなたはこちらですよ。もう少しでお連れさんと来ます」
布団の対面は、押し入れである。
押し入れに入ってQコーチを待て、ということか。女将は水差しとコップを持ってきた。今で言う、熱中症対策だ。コトここに至って鈍い私も、何が始まるか予想が立った。となると、相手は昼に見たあの女性か。
押し入れでしばらく待っていると、複数の足音がして、部屋に入ってきた。
「なあに、こんなところなの?」
エッ、酒とタバコ、それにカラオケで潰したようなしゃがれ声である。Qコーチの声が追いかけた。
「たまにはいいじゃないか」
あの楚々とした美人なのか。押し入れのすき間からそっと覗く。洋服である。巨大なヒップが見えた。ゲッ、話が違う。ボリュームたっぷりだ。しかもかなり年のようだ。オイ、×子はどこにいる、×麻はなぜ来ない。心の中で叫ぶ。ああっ、早とちりだった。
照明が落ちて薄暗くなり、肉弾戦が始まった。
「こっちへ来いよ」
「ウフフ」
女が甘える。静かな立ち上がりである。2人が体を寄せ合って、お互い触りまくっている。
2人は徐々に、激しい息遣いになっていった。暗いからよく見えないが、大体の様子は窺える。中盤に入って69の態勢に。その後、上になったり下になったりしている。
「アアアッ!」とか「すごーッ」「ひうううッ」「ぬああああー」…と、やたら女性はヨガリ声を上げる。Qコーチのたくましい体が躍動している。こちらを意識しているのか。
終盤戦は肉と肉のぶつかり合いだ。「ぐちゃッ!」「パンパンッ」と、肉食系の猛獣が交わっている。
もう一度、言う。ハッキリとは見えないが、迫力があった。部屋にクーラーがあったが、効いていたのかいないのか。扇風機が生ぬるい風をかき回していた。
押し入れの中は悲惨だ。プーン…やぶ蚊も飛んできた。用心して水も飲めない。喉もカラカラである。
肉弾戦が終わった。2人が部屋にいたのは1時間弱だろうが、もっと長く感じた。部屋を出たのを確認して押し入れから解放された時は、ヘロヘロだった。すぐに水を飲んだ。2組の布団は乱れに乱れ、淫靡な匂いが残っていた。
玄関でフラフラしていた私に、女将が「ご苦労様でした」と言った。慣れた感じだったが、目には軽蔑の色が浮かんでいた。
翌日、球場でQコーチと顔を合わせた。「オウッ」のひと言である。変わった様子はない。普段通りだった。あれは幻だったのか。
世の中には裏があれば表もある。秘めた行為を見たい人がいれば、見せたい人がいる。Qコーチは間違いなく後者だったろう。
しかし、なぜ呼ばれたのか。特異な眼力で「見たいタイプ」だと判断したのか。今もわからないままだ。
(野球マスターX)