麻痺が残る右手はいつもポケットの中に。ミスタープロ野球のそんな姿を、ファンも見慣れていたはずだ。だが今年の宮崎キャンプでは右手をさらけ出し、選手や首脳陣を次々と激励。その精力的な動きは「悲願」達成のための、常識外れとも言える超過酷トレーニングによるものだった。
「革製の手袋をつけた右手はポケットには入れず、外に出していました。右足のズボンの裾からは装具が見えたけど、昨年より背筋がピンと伸びていて、口ぶりも滑らか。声もよく通っていた。衰えるどころかますます元気になっていて、正直、驚きましたよ」
スポーツ紙記者がこう明かすのは、2月11日と12日の2日間、巨人・長嶋茂雄終身名誉監督(81)が宮崎キャンプを視察に訪れた際の様子である。これまでミスターはイベントなどで人前に出た際、麻痺の残る右手をポケットの中に入れたままだった。だが、もうそれを隠さなくなったのだ。この日の宮崎の最高気温は9度。ミスターが姿を現すと、球場の観客席からは大きな歓声と拍手が湧き起こる。球団関係者が言う。
「ミスターはさっそく、通称『原タワー』と呼ばれる、打撃ケージ後方に設置された高さ2メートルの監視塔を1人でよじ登ろうとした。心配した球団スタッフから止められる一幕もありましたが、結局、登ってしまった。そこで身ぶり手ぶりを交え、同席した高橋由伸監督(41)と談笑していましたね」
グラウンドでは阿部慎之助(37)と握手をし、節目の2000安打まであと83本に迫るベテランの背中を2度ほど強く叩き、奮起を促す。前出・球団関係者によると、ミスターは阿部に、こんな言葉をかけたという。
「キミがしっかりしないと優勝できないぞ。早く2000本を達成しなさい」
阿部はその時のやり取りについて、報道陣にこうも語っている。
「あまり話す時間がなかったけど、『お肉を食べさせてください』とお願いした」
さらに午前中のフリー打撃後には、集まった野手陣の前でかぶっていたニット帽を脱いで左手を力強く握りしめ、「勝つ! 勝つ! 勝つ! 勝つ!」と大きな声を上げたのだった。その声量は、スタンドのファンにも届くほどだったという。ミスターはそのあと、室内練習場に移動すると、投手陣を集めて、再び「勝つ!」と4回も連呼。
ブルペンでは、投げ込みを行う大竹寛(33)の投球を見て「よし!」とみずからを鼓舞すると、右打席に立っている。さらに午後からは紅白戦を観戦と、目まぐるしく動き回ったのだ。
「ベンチ近くで選手たちに訓示を発することになっていて、球団がセッティングしていた。ところが、ミスターはそんなことにはおかまいなく、センター付近で話し始めてしまう。練習後の囲み取材も球団のセッティングとは別の場所で受けたり。あの精力的な動きは、全盛期のミスターに戻った感じですよ」(球界関係者)
その背景について、この球界関係者は、次のように明かした。
「視察直前にOBの西本聖氏(60)、中畑清氏(63)がそれぞれ契約するスポーツ紙上で『今年の巨人キャンプは元気がない』とそろって論評し、ミスターはそれを非常に気にしていた。自分が何とかしないといけない、と。だから大ハッスルしたんです」