番長と天才の「代理戦争」が、神宮球場で勃発だ。東京六大学野球の新人戦にあたる「フレッシュトーナメント」に清原和博氏の長男・清原正吾内野手(2年)と、前田智徳氏の次男・前田晃宏投手(1年)=いずれも慶應大学=が、来季の先発メンバーの座を目指して登場。プロ野球界を牽引してきた偉大な父「番長」と「孤高の天才」…その愛息達も、父の異名通りの野球人生を歩んでいる。
1年生ながら圧巻の投球だった。11月7日に行われた明治大戦の7回から登板したのは、晃宏投手。国内外のスカウトや清原氏も見守る中、138キロのスピードガン表示よりも速く見えるストレートを武器に、3奪三振を含む三者凡退で2イニングを抑え、来季のピッチングローテ入りを確実にした。
父親譲りの、まさに「天才」。エリート街道を爆進中だ。父が所属した広島カープの育成チーム、広島カープジュニアから広島ボーイズ、野茂英雄氏が総監督を務める日米野球U-15中学日本代表、通称「NOMO JAPAN」にも選ばれている。アマ野球担当記者が言う。
「父からのアドバイスだったという、強気のインコースをつくコントロールも申し分ありません。慶應高校時代にケガをしたのと、大学進学が確実視されていたため、ドラフト指名こそありませんでしたが、スカウトが注目する逸材。父親そっくり、眼光鋭い切れ長の目で打者を睨みつける強気のピッチングも、面構えもいい」
一方の正吾内野手は、晃宏投手と好対照。野球キャリアはまさに「番長」そのものだ。
母でモデルの亜希さん似で、審判や観客席にも深々と礼をする好青年。父・和博氏の薬物問題が出た頃にいったん野球から遠ざかり、高校時代はアメリカンフットボールで活躍した。慶應大学進学後に、6年間のブランクがありながら野球部に入部した異端児である。
打席に立てば、プロのカメラマンはもちろん、バックネット裏や相手チームの応援席からも、スマホのシャッターが一斉に切られる。2年生になり、フィールディングは俄然よくなったものの、打撃の方は明治戦でなんとか速球に食らいついた、ボテボテの1安打のみ。秘めたポテンシャルと人気と期待度に、成績はまだ追いついていない。
しかも正吾内野手にとって気がかりなのは、11月8日の東大戦で慶應が東大に16対6の7回コールド負けという、東京六大学野球史に残る大敗を喫したこと。慶應大野球部は近年、ジュニア、シニアで活躍した選手を付属校から7年かけて育てる方針をとってきた。実際に2年前、正吾内野手と同学年にあたる中京大中京の高橋宏斗投手(現・中日)を、AO入試で不合格にしている。当時、高校No.1と言われた球速154キロ右腕を、である。
父と同じ背番号5を渡され、来季のスタメン入りに手が届くところまできたが、東大に歴史的大敗を喫したとあって、これから始まる大学受験シーズンに、慶應大野球部が即戦力補強をする可能性も出てきた。
チームは屈辱の5位6位決定戦へ回ることになった。前田、清原ジュニアも、試練の冬を迎える。