表情やしぐさ、さらに息づかいなど、記者会見にはその瞬間がリアルにテレビに映し出される。そのため、その人物が胸の奥にしまい込んだ問題や苦悩が、ふと浮かび上がることも少なくない。
01年5月1日。「レオン」の世界的ヒットなどで知られる映画監督リュック・ベンソン製作・脚本のフランス映画「WASABI」の製作発表記者会見に登壇した広末涼子の場合も、おそらくはそんな苦悩が爆発した、印象的なケースだったのではないだろうか。
当時、彼女は早大入学後の「不登校問題」バッシングに始まり、男性モデルとの熱愛、さらには俳優との「通い同棲」が報じられ、一時期の大人気が翳りを見せていた。しかし、映画「鉄道員」での高倉健との共演を機に、女優として評価が高まる中、なんとジャン・レノ主演のベッソン映画に大抜擢されることになったのである。
当時、広末はまだ20歳。対するスタッフ、出演者は文字通り世界レベルだ。しかも、ロケの大半はフランスのパリ。さすがに1カ月やそこらのホームステイでは、フランス語を流暢にマスターすることは無理である。
そんなプレッシャーとストレスが一気に爆発したのか、とにかくこの日の記者会見は、のっけから波乱に満ちていた。
金髪にヘソがモロに見えるローライズジーンズ姿で現れた広末は、ジャン・レノが「一緒に仕事ができて嬉しい」と笑みを浮かべた途端、大粒の涙を流して号泣。涙は10分ほど止まらず、戸惑ったレノが広末の肩を抱き、頬にキスするなど、必死にフォローした。涙の理由を聞かれた広末は、
「夢をかなえることと、自分を守ってくれる人がいることで、負けてはいけないと思ったり。でも、こういうことは勝ち負けではないと思ったり」
と、意味不明の返答。さらに、パリロケの感想を聞かれても、
「過程が結果を生み、結果が過程を生む。エピソードが映画を作っていく…」
会場の誰もが思わず顔を見合わせてしまうやり取りに終始するなど、集まった記者からは「ヤバいよ、ひところの華原朋美かと思った」との声もチラホラの「迷回答」会見となったのである。
彼女の「異変」は、それだけにとどまらなかった。予定されていたNTTドコモの新CM公開撮影を、前日になってドタキャンしたのだ。所属事務所からは「連日の撮影で疲労が激しく、CMも映画も万全の態勢で臨みたいので、撮影の延期を願い出た」との回答を得たが、同社のCMは広末の出世作。それをキャンセルしたことで、様々な憶測を呼んだものだ。
映画はフランスでは01年10月に、日本では02年2月に公開されたが、はたしてあの涙の意味は何だったのか。
(山川敦司)
1962年生まれ。テレビ制作会社を経て「女性自身」記者に。その後「週刊女性」「女性セブン」記者を経てフリーランスに。芸能、事件、皇室等、これまで8000以上の記者会見を取材した。「東方神起の涙」「ユノの流儀」(共にイースト・プレス)「幸せのきずな」(リーブル出版)ほか、著書多数。