なぜ、巨人・坂本勇人の「中絶トラブル」は不問なのか。ここにきて、球界内では坂本の騒動が再びクローズアップされている。
コトの発端は今年10月、SNSを通じて知り合った30代の女性を妊娠させ、中絶を強要するというトラブルを引き起こした広島・中村奨成の契約更改だった。10月21日、広島・マツダスタジアムで交渉に臨み、100万円減の年俸800万円(推定)でサインしたからだ。
確かに中村の今季の出場はわずか27試合で、打率1割9分3厘、0本塁打に終わっている。だが、フロントから「野球に真摯に向き合うように」という注意を受けた上、秋季キャンプへの参加も許可されなかった。地元テレビ局関係者が説明する。
「広島の野球界は広島商業、広島工業、広陵…この3校の出身者を中心に回っている。その意向は地元の政財界にも及んでいるといっていい。中村の扱いを間違えると、今後にどんな影響が出るか分からない。独立採算の広島カープとしては、広陵出身の中村に対する配慮はあったでしょう。それでもこの処分はかなり厳しい」
中村は広陵高時代の17年夏の甲子園で、大会史上最多の6本塁打をマーク。同年ドラフト1位で入団し、広島待望の大型捕手として将来を期待されてきた。だが、プロ通算5年間で、わずか2本塁打。インサイドワークにも難があると指摘され、外野へのコンバートが再三検討されている。新井体制になる来年は、まさに正念場。そう考えれば、アピールの場になる秋季キャンプにも呼ばれないのは、戦力外の扱いといっていい。
在阪スポーツ紙遊軍記者も、
「このままなら12月に行われる『現役ドラフト』のリスト入りもありうるでしょうね。とはいえ、素行面の問題が発覚した選手を取る球団はない。広島に残るとしても、首の皮1枚です」
と現状を解説する。
それに比べて坂本は、秋季キャンプ参加を直訴したことが美談のように扱われ、今後も球団から騒動のペナルティーを科される可能性はない。せいぜい原監督が「キャプテン」を剥奪したぐらいで、処分といえるほどのものではなかろう。球界OBは怒りに震えながら、
「中村も坂本もやらかしたことは同じなのに、一方は処分を受け、一方に何もないのはおかしい。巨人は何を考えているのか」
故・正力松太郎氏が残した「巨人軍は紳士たれ」は今やすっかり昔の話だ。
(阿部勝彦)