連日、国の威信をかけた真剣勝負が繰り広げられているサッカーW杯ブラジル大会。日本代表は6月15日(日本時間)に行われたコートジボワール戦で1対2と惜敗し、暗雲が立ち込めているが、ザックジャパンと同様に窮地に立たされている“日本代表”がいる。
それは、開幕戦のブラジル対クロアチア戦を裁いた西村雄一主審である。
ブラジルが開幕戦で3対1と勝利した同試合の決勝点へとつながったPK判定を巡り、クロアチアのニコ・コバチ監督は試合後、「私はフレッジ(クロアチアDFに倒されたブラジルFW)を全く非難できない。レフェリーを非難する」
と怒りを露わにした。
日本の芸能界からも明石家さんまがラジオ番組で「あのプレーで取ったら、とんでもなくPKの数、多くなるぞ。そんなに激しく掴んでないって。あんなのゴール前では当たり前のこっちゃ」
と西村主審を批判。さらに、宇多田ヒカルがツイッターで、
「不運な敗北を喫したクロアチアの人たちが、日本人のことを嫌いにならないでほしい」
と発言するも直後に、
「周りのサッカーファンがみんな誤審だって騒いでたから鵜呑みにして失礼な冗談を書いてしまった 西村さんごめんなさいorz」
と再ツイートしている。
この疑惑の判定は、世界中のメディアも取り上げ、物議を醸し出した。6月13日にFIFA審判団委員長は西村主審を擁護する声明を発表したが、海外サッカーメディア関係者は、今回の誤審騒動について、このようなジャッジを下す。
「スローVTRで見る限り、クロアチアDFは手を使ってフレッジを止めようとしているのは明白。だが、論点は、DFの接触がラグビーのような激しいタックルではないということ。確かに手は使って止めようとはしているが、185cm、90kgの体格を持つフレッジがあの程度の接触で倒れるかということなんです。今回の誤審騒動は、まさに欧州と南米のサッカー観の相違による論争と言えるでしょう。
欧州では、サッカーはフィールド上で行われる紳士の格闘技とみなされています。屈強な選手たちが体と体をぶつけ合う肉弾戦は当たり前で、今回のような軽度な接触でPK判定になることはまずありません。その一方で、南米では“マリーシア”(ずる賢さ)というサッカー用語がある通り、ずる賢いプレーはサッカー選手にとって大事な資質と考えられているんです。だから、DFの手を使った接触を確信したフレッジは、条件反射的に倒れたんだと思います。このプレーをしたたかと取るか、あざといと取るかは、結局のところお国柄次第と言えるでしょう」
1986年メキシコ大会決勝戦でアルゼンチンの英雄マラドーナによる“神の手ゴール”など、これまでにもW杯では、さまざまな誤審騒動があったが、サッカージャーナリストは問題の本質を指摘する。
「世界トップレベルのレフェリーは、リーガエスパニョーラやブンデスリーガ、プレミアリーグなどの強豪リーグがひしめく欧州に集中している。しかし、W杯では中立国のレフェリーがホイッスルを吹くことになっているため、サッカー新興国からもレフェリーが招集されるのです。このことも誤審騒動の一端になっている。誤審騒動を根本的に解決するには、W杯を主催するFIFAが明確なガイドラインを設け、ホイッスルを吹くレフェリーを指導していくしかない」
レフェリーを必要とするスポーツに誤審は付きものだが、ひとつの判定を巡り、ここまで世界中がヒートアップするのは、W杯が地球上において最も注目度の高いスポーツの祭典だということの現れと言えるだろう。