最初に言いますが、安全保障の専門家としては、今回の「反撃能力」の保有を明記した「安保3文書」はよく練られたものだと評価しています。
もちろん反対派が猛反発していることは承知していますが、中国がドンドン軍拡している現状では、日本も対抗しなければならない。アジア太平洋エリアで中国をどうにか抑えようとしている。GDP比2%の防衛費も世界標準です。日米安保タダ乗り論もある通り、アメリカに全部頼っているわけにはいきません。中国から2000発のミサイルが日本に向いている中、日本の安全保障上からも中国を抑える必要があると思います。
とはいえ、話の進め方には問題があると思います。今回の「反撃能力」に関して最初は北朝鮮の核ミサイルに対する迎撃が間に合わないという話から始まっていた。ところが、実際にフタを開けてみると、本命は中国の着上陸に対する反撃と変わっていました。これは中国を刺激しないように、あえて北朝鮮と中国をごっちゃにしていたのだと思います。自民党の中にも一部親中派の議員はいるので、反対されないように、まずは北朝鮮に対する反撃ミサイルという話になったのでしょう。
さらに言えば、そのミサイルに関しても、現状では巡航ミサイル「トマホーク」、「12式地対艦ミサイル」の名前が取り沙汰されているが、本命は自衛隊の「島嶼(とうしょ)防衛用高速滑空弾」です。このミサイルの射程は2000~3000キロで表向きには本州から沖縄という理屈になっているが、明らかに中国の航空拠点を叩くミサイルになります。ハッキリ言わないのは現在開発中だからでしょう。
こうした説明は、国民には一切なされていません。本当のことを言えばマスコミに攻められるからかもしれない。だが、本来きちんと議論すべき点を政治的な思惑でごまかしているのです。そろそろ国民に対し、北朝鮮のミサイルへの反撃ではなく中国本土への反撃能力だとしっかり知らせるべきでしょう。
もちろん43兆円の防衛費の国民負担に関してはいろんな考え方があると思いますが、「将来に負担を残さない」と増税に踏み切った以上、国民をごまかさない説明が必要だと思います。