シンガーソングライター、故・村下孝蔵の大ヒット曲「初恋」。思春期の男子の切ない恋心を歌い、今なお世代を超えて愛され続けている名曲だ。実は昨年2月、ソニーミュージックグループがそのミュージックビデオ(MV)を制作し、公開していたのを知っているだろうか。
映画監督の井上真行が指揮を執って作られた映像は、同曲発売から39年目にして初のMVだ。
「井上監督によると、『初恋』を現代的な解釈で映像化する、とのコンセプトで制作されたものです」(音楽関係者)
「初恋」は83年2月に発売され、オリコンチャート3位を記録。50万枚以上を売り上げた。主人公である男子生徒が女子生徒に抱く恋心、「好き」と伝えることも名前を呼ぶこともできないもどかしい想いを、哀愁あるメロディーに乗せて歌い上げた。なぜ今頃になって大ブーイングが起きていているのかは不明だが、
「井上監督が作り上げた映像が、歌詞のイメージとはまるで違ったものになってしまっていることが、批判の原因でしょう。MVでは恋をしているのが女子生徒で、好かれる側が男子生徒と、原曲とは反対になっています。百歩譲ってそこは許容するとしても、主人公の女子は好きな男子をスマホのビデオカメラで撮影しまくり、嫌がる男子を執拗に追いかけ回して撮影を続ける。そして撮影した動画を自室のベッドに横たわってニヤニヤと観賞するなど、ちょっとホラー的な面もありますね」(前出・音楽関係者)
事実、村下ファンの間でも、不快感をあらわにする意見は多々ある。
「曲のイメージがブチ壊しだ」「高校生の頃に聴いて大好きだった曲。思い出を汚された気分だ」「現代的に解釈すると、なぜ嫌がる相手をしつこく撮影するという行為になるのか」「村下さんが表現する初恋の切なさは、もっと普遍的なものでしょ。この女の子は終始楽しそうに撮影していて、違和感しかない」…という具合だ。音楽ライターも憤る。
「井上監督は当時、『この愛され続ける名曲の世界観を、とにかく壊したくなかった』と発言しているのですが、全く理解できない。少なくとも私には、世界観を思いっきり壊してしまったとしか受け取れませんし、ソニーがなぜOKを出したのかも疑問です」
解釈の仕方も、現代的な表現や感性も人それぞれだが、ここまでブーイングが拡大した事実を、制作サイドはきちんと受け止めるべきだろう。
(石見剣)