テリー 話はコロッと変わりますけど、高倉健さんと映画「居酒屋兆治」で共演なさってますよね。
加藤 健さんの奥さん役でね。でも、私は高倉健さんのファンだったので、ちょっと断ったりしたんですよ。「私でいいの? もっと素晴らしい女優さんでやったら?」って。
テリー ああ、そうだったんですね。
加藤 そしたらプロデューサーが来て、「いや、この役は女優じゃない人にやってほしい」「加藤登紀子であればいい」って言ったんですよ。だから、びっくりして、すごいなと思って引き受けたわけ。
テリー うれしいですよね。高倉健さんの妻なんて。
加藤 そしたらそのプロデューサーがね、これはちょっと失言だと思うんだけど、別れ際に「あのね、健さんは美人が好きじゃないんだ」って。だから、私は美人じゃないから選ばれたわけ(笑)。
テリー アハハハハ。
加藤 それで、「あ、そうなんだ。よくわかりました」って引き受けたんだけど。でも、きっと健さんが「女優じゃなくていい。加藤登紀子という人とやりたいんだ」と言ってくれたんだろうなと思ったから、すごくうれしかったですね。そしたら健さんが藤本敏夫のことをよく理解してくださってて。
テリー 加藤さんの旦那さんですよね。
加藤 健さん、警察に捕まる役が多いでしょう。「居酒屋兆治」でも、ちゃんと警察に捕まるシーンがあって。それで私が選ばれたのかな。
テリー アハハハハ。獄中の旦那を支える女ということでね。加藤さんも旦那さんとは獄中結婚だから。
加藤 健さんと初めて腕を組んで小樽の運河の横を歩くシーンがあったんだけど、うれしくてさ。私が深くため息をついたら健さんが、「思い出すんですか」って言ったんですよ。
テリー 何をですか。
加藤 私も藤本敏夫が出所する時にお迎えに行ったことがあるわけだから、それを思い出して私がため息をついたと、健さんは思い込んだんですよ。私の頭の中は健さんでいっぱいなのに、健さんは藤本敏夫でいっぱいだと思ってた(笑)。
テリー ああ、そういうことか。そんなことないですよね。
加藤 でも、健さんは「加藤登紀子は刑務所にいる人と結婚した」と。「ああ、今、そういう奥さんと腕を組んで歩いてるんだ」って健さんはちゃんと頭の中でストーリーを構築してらしたっていうことですよね。それはすごいなと思いましたね。
テリー 宮崎駿さんの「紅の豚」でも声優に挑戦してますよね。
加藤 ジーナ(加藤が演じた役)が「さくらんぼの実る頃」を歌うシーンの映像を撮ったのは、当時原宿に開店した「テアトロ・スンガリー青山」という、うちのレストランです。この店のコンセプトは1920年代のカフェ、「紅の豚」の時代背景も1920年代ということで、「ピッタリだね。こういう空間だよ」って宮崎さんが言うので決まったんです。その撮影したVTRを基にジーナが歌うシーンができているから、背景とかも全部、うちの店そのまま。もうそのお店はないんですけど。
テリー じゃあ、加藤さんが実際に演じて歌った映像が基になって、あのシーンが描かれてるってことですね。
加藤 そうですね。あくまでも絵を描く基の映像ってことでリラックスしてやったんですけど、その時に録音した歌が映画でもそのまま使われていて。あれはびっくりしましたね。