群れからはぐれ、淀川の河口に迷い込み、連日ワイドショーでその動向が報じられていたマッコウクジラの“ヨドちゃん”。1月13日までに死んでいることが確認されたが、その処理を巡って大爆発の危険性が指摘されたのである。
大阪港湾局の職員がヨドちゃんのその後について説明する。
「『海へ還してあげたい』という松井一郎大阪市長の方針に従い、18日の午前中に風に流されて淀川の浅瀬に漂着していた死骸にネットを巻きつけて、船で大阪湾内の岸壁まで運搬しました。そこでクレーンを使って作業用の船に乗せ、専門家たちの立ち会いのもとガス抜きなど、死骸を海に沈めるための作業を行いました。さらに翌19日の早朝、作業船で和歌山県と徳島県の間にあたる紀伊水道沖まで運び、約30トンのコンクリートブロックを取り付けた死骸を海底に沈めました」
こうして無事に慣れ親しんだ海に還ることになったのである。
「死んだ巨大クジラの後始末は、過去にも日本国内において行われていますが、国土交通省や地方自治体をはじめとした関係各所との調整が必要になるため、いろいろと大変なんですよ。いわゆる縦割り行政の構造が弊害となり、遅々として進まないこともあります。しかし今回のケースは、クジラが死んでいることが確認されてから、わずか1週間で死骸の処理が行われました。松井市長を中心としたスピーディーな対応は、まさに“ファインプレー”と言えるでしょう」(国交省関係者)
というのも、体長15メートル、重さ38トンもあったヨドちゃんだが、死んだクジラの後始末が遅れることにより、前代未聞の大惨事が起こっていたかもしれないからだ。
海洋ジャーナリストの永田雅一氏が、クジラの死骸がもたらす甚大な被害について解説する。
「クジラは強力なゴムのような皮に覆われているのですが、太陽に照らされて内臓などの臓器が腐敗していくと、体内にメタンガスが溜まっていき、どんどん体が膨らんで、その内圧に耐えきれなくなると、やがて爆発を起こす恐れがあります。より正確に言うと、クジラから火が出るわけではないので破裂ということになりますね。今回は気温が低い冬の季節だったため、腐敗の進行が遅かったのも幸いでした」
実際、これまでも世界各国において、死んだクジラの大爆発による惨事は起こっている。
「例えば2004年、台湾・台南市近くの海岸に座礁して死んだマッコウクジラを解剖するため、大型トラックで研究機関に運んでいる途中に街のど真ん中で突然、破裂したんですよ。多くの通行人や店先に大量の血や内臓、腸などが飛び散って、とんでもない悪臭を放ち、現場はまさに阿鼻叫喚の様相だったそうです。ネットで〈台湾 クジラ 爆発〉と検索したらその時の画像や動画も出てくると思います」(前出・永田氏)
破裂以外にも、死んだクジラが生み出す災厄は多々想定されるという。
「クジラの頭の中には脳油と呼ばれる大量の油が入っているんです。例えばクジラが沿岸で死んだ場合、腐敗が進んでいくと頭が裂けて脳油が漏れ出し、周辺に広がっていく恐れがあります。この脳油も悪臭を放つ上、サメの大好物でもあるのです。おのずとサメを沿岸部に引き寄せることになってしまいますね。また、クジラの死骸を海に放置したままだと、小型漁船のスクリューに絡んで大事故につながる可能性もある。ですから今回、早急の対応により何事も起こらなかったことに安堵しています」
ヨドちゃんを巡る松井市長の対応は、4月に大阪府知事選と大阪市長選の“ダブル選挙”が行われる中、くしくも大阪府民・市民に対する絶好の政治パフォーマンスになったのではないだろうか。