かの大人気アニメは映画で300億円を超える興行収入を叩き出したが、こちらの「ルフィ」は「タタキ(強盗)」と「特殊詐欺」で数十億円を奪い取った。モラルなき犯罪集団が手に入れたのは、海賊につきものの「宝の地図」ではなく、罪のない市民が襲撃目標となってしまう「闇のリスト」だったのだ。
その不可解な「リスト」に記載されていた50件以上に及ぶ個人情報は、実に微に入り細をうがつものだった。「03」から始まる東京都の固定電話番号、名前、自宅の番地と思しき数字、家族構成、職業‥‥。年齢は65歳から91歳までと高齢者に絞り込まれ、「穏やか」「怒りやすい」といった性格も記されている。
特筆すべきことに「300万」「5000万以上」など、各人の資産額も明確に記載。タンス預金や株券、土地の有無が書き込まれ、さらには「痴呆症ぎみ」「マンション経営」といったプライバシーまで筒抜けになっているではないか。実はこうしたリストが闇社会で出回り、全国で勃発した強盗事件に利用された可能性が極めて高いという。いったいなぜ、こんなものが‥‥。
昨年春頃から続発する、いわゆる「ルフィグループ」が関与したとされる連続緊縛強盗事件に、大きな進展が見られている。強盗の実行犯が相次いで逮捕され、フィリピン・マニラ郊外のビクタン収容所から指示を出していたと見られる渡辺優樹容疑者(38)、今村磨人容疑者(38)、藤田聖也容疑者(38)、小島智信容疑者(45)の4人に対し、在フィリピン日本大使館が強制送還を要請。4人はマルコス大統領が訪日する2月8日までに日本に帰国する運びとなったのだ。犯罪ジャーナリストの小川泰平氏が言う。
「事件の全容解明に向け、大きな一歩を踏み出したのは間違いありません。しかし、同グループには他にも『ルフィ』を名乗る指示役の人間がいる、あるいは4人より上位の『黒幕』がいるとも指摘されていますし、強盗団が同グループだけのはずはない。強盗は常に襲撃相手を探していて、そこで使われるのが『リスト』や『名簿』です」
一般人が普通に生活していく中で利用することはまずないだろうが、世の中には「名簿業者」なるものが存在する。同窓会名簿や会社、公務員、協会等の所属員の連絡先が記された名簿を入手し、それを販売。テレアポ業者や不動産販売業者などが購入し、営業活動を展開するのだ。個人情報保護の観点では問題があるが、条件付きで営業が認められている。
そうした名簿のいわば「犯罪版」が冒頭の不可解な「リスト」なのだ。表で流通する名簿に毛が生えた程度のものもあれば、強盗団が悪用する高確度のものまで玉石混交。00年代に入って猛威を振るった「オレオレ詐欺」以後、こうしたリストの存在はたびたびクローズアップされてきた。
「『ルフィ』グループはもともと約2300件もの特殊詐欺を働き、その被害総額は35億円に上ります。名簿は腐るほど持っている。ですが特殊詐欺の取り締まりが強化され、騙される人も少なくなってきた。より直接的に稼ぐために強盗に手を出したと見られます。そこで特殊詐欺用の名簿を再利用したとしても不思議はありません」(小川氏)
強盗リストは長い年月を経て練り上げられてきたのだろう。