熱血を通り過ぎ、黒焦げになりそうな暑苦しさがトレードマークの、スポーツキャスター・松岡修造。そんな松岡を一瞬で凍りつかせた男がいる。スポーツ紙記者が解説する。
「先日、世界ランク1位で引退表明した車いすテニスの国枝慎吾です。錦織圭や大坂なおみについては熱弁を振るう松岡ですが、これまで国枝のインタビューではどことなく遠慮している印象があった。日本の男子プロテニスプレイヤーの草分けである石黒修さんを父に持ち、国枝夫妻とプライベートで交流のある俳優・石黒賢が、東京五輪で国枝が金メダルを獲得した際に大号泣したソレと比べても、松岡は珍しく冷めていた。象徴的なのが、引退会見をした2月7日にゲスト出演した『報道ステーション』(テレビ朝日系)でした」
国枝にインタビューする松岡は「車いすテニス」を連呼。そして、
「こんなに長い期間、続けてこられたのは、車いすテニスの何が魅力だったんですか」
と国枝に尋ねたのだ。視聴者が違和感を覚えるかもしれない、無礼な質問にも聞こえかねないが、国枝は満面の笑顔で返した。
「テニスが好きだからです」
「車いす」を連呼する松岡への強烈なボレー。松岡はおそらくここで初めて、自身が無意識に抱いていた車いすテニスへの偏見と差別に気が付いたのだろう。ハッと息を止め、目を開いて背筋を伸ばすと、かつて1980年代、ケガと戦いながら世界を転戦した現役時代の顔に戻ったのだ。
「その後の松岡は、車いすテニスをスポーツとして認めてもらうことに腐心した国枝の話を黙って聞いていた。テニスを愛する者同士の、和やかな雰囲気に一変しました。国枝の『テニスが好きだから』というひと言には、それだけの重みがあったのでしょう」(前出・スポーツ紙記者)
俺は最強──。国枝は女王アシュリー・バーティと同じく、世界ランク1位のままラケットを置いた。カッコ良すぎである。