仮に、打撃のことだけを考えてもいいDHというポジションを与えられていたなら、85キロぐらいまでは増やしたはずです。実際に毎年、春季キャンプの時期は85キロの体重があり、すごく楽にボールが飛ばせました。でも、オープン戦で三塁の守備に就くと、必要以上の体の大きさを感じだすのです。そのまま無理して体重を維持し、故障した経験もありますから、開幕までには必ず78キロに落としていたのです。
身長176センチでは、78キロでも重たすぎたのかもしれません。もし、ホームランを打つ必要がなければ73キロぐらいのスリムな体でもよかったのです。そうすれば、もっとケガも少なかったでしょう。しかし、4番打者としてホームランを求められた以上は、リスクを承知で限界ギリギリのサイズを維持しなければいけなかったのです。
巨人の4番を任された阿部も同じ。体を必要以上に大きくせざるをえない立場だったのです。また、彼の場合は捕手という特殊なポジションも影響しています。他の野手と比べて激しい動きは少なく、打撃のことだけを考えれば、体格は大きいほどいい。しかし、阿部も35歳となり、肉体的なピークは過ぎています。これからは、若い頃の体を取り戻すのではなく、今の年齢に合った体重と打ち方を自分で追究していくべきでしょう。
大きすぎる体というのは、ぜいたくな悩みなのかもしれません。私も食べることにストレスを抱えたくなかったので、好きなものを好きなだけ食べました。サプリメントなんてものもない時代でしたが、肉を食べれば、同じぐらいに野菜も食べて自然とバランスのいい食べ方をしていました。体重が増えすぎれば、あとは汗を流して調整するだけでした。しかし、体重が思うように増えずに悩んでいる選手もたくさんいるのです。阪神の二軍でも西田や北條らが、プロとして戦う体をなかなか身につけられないでいます。
私も体調を崩して72キロにまで体重が落ちたことがありますが、その時はボールをバットで押し返すことができませんでした。すぐにベスト体重を割り込む選手は大変です。特に夏場になると体が食べ物を受け付けず、体重がどんどん減ってしまう選手もいます。アスリートの体重が減るということは筋肉も落ちているということです。内臓の強さと、遠征などの際にすぐに寝られる体質というのは、一流のプロ野球選手の条件と言えるでしょう。
体作りでいうと、二軍の練習を見ていて、ひとつ考えさせられることがあります。昔と比べるとランニング量が少なくなったと思うのです。やはり野球の基本は下半身。私も走るだけでなく、スタンドの階段をおんぶや肩車で上ったりなど、ずいぶんとやらされたものです。今思うと、それが実は理にかなったトレーニングでした。人を背負ってバランスよく立つことが、自然と体幹を鍛えることにもつながっていたのです。
最近はお尻が大きく、ナチュラルで立派な体をした選手が少なくなりました。科学的なウエートトレーニングが全盛の時代ですが、ケガに強い選手を作るためには、昔ながらの鍛え方も再評価するべきかもしれませんね。
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