2月9日、10日の両日、東京・立川市で行われた将棋の第72期ALSOK杯「王将戦」七番勝負の第4局は、挑戦者の羽生善治九段が藤井聡太五冠に107手で完勝。羽生が2勝2敗のタイに戻した。
今回の対局では、羽生の寝グセが久しぶりに復活。聞くところ、寝グセがひどい時は調子がいいというジンクスがある、との噂もあることから、次回の2月25、26日に島根県で行われる第5局の行方が俄然、注目されている。
羽生の寝グセで思い出すのが、当時七冠王だった彼と妻・畠田理恵の、鳩森神社(東京・千駄ヶ谷)での結婚式後、裏手にある将棋会館で行われた記者会見でのワンシーンだ。時は96年3月28日である。
新聞社の代表質問が終わり、いよいよ芸能マスコミ各社による質問となったのだが、そこで飛び出したのが、羽生の「寝グセ」問題だった。
この日はムースで整えられているのか、寝グセはなしだったのだが、ある記者が「今日は寝グセが整えられていますが…」と質問したところ、畠田がクスクス。そんな新婦を横目で見る羽生は「笑うことないでしょ」。そして彼女が新郎に「別人のようです」と囁くと、羽生が照れくさそうに「寝グセは独身時代で終わりにします」と「寝グセ封印」を宣言。報道陣からもドッと笑いがこぼれた。
実はこの日を迎えるまでには、様々な苦悩があった。2人は前年に婚約発表したのだが、その直後から彼女のもとには「羽生と別れろ。さもないとひどいことになるぞ」といった脅迫状が届くようになった。
さらに挙式1カ月前の2月19日には、JR東京駅八重洲口で畠田が突然、ホームレス風の男に腰を蹴り飛ばされ、救急車で聖路加病院に救急搬送される。2週間の絶対安静を余儀なくされる事件が勃発したこともあり、挙式当日は所轄の原宿署が神社周辺に80人の警察官を配備する騒ぎになったのだ。
厳重警備が功を奏したのか、何事もなく挙式は終了。その安堵感もあったのだろう、会見は終始和やかなムードで行われ、「畠田さんを将棋の駒に例えると何ですか」という、およそ将棋記者からは出ないであろう質問に、苦笑いしながらも、
「駒にはたとえられません」
と答える羽生の、困ったような、それでいて嬉しそうな表情が印象的だった。
ちなみに、挙式で着用した花嫁衣装はレンタルで、新婚旅行は伊豆へ2泊3日。130人が列席する披露パーティーも立食で、引き出物は京扇子1本(3800円)だったとか。
終始、自然体での挙式、そして記者会見となったのである。
(山川敦司)
1962年生まれ。テレビ制作会社を経て「女性自身」記者に。その後「週刊女性」「女性セブン」記者を経てフリーランスに。芸能、事件、皇室等、これまで8000以上の記者会見を取材した。「東方神起の涙」「ユノの流儀」(共にイースト・プレス)「幸せのきずな」(リーブル出版)ほか、著書多数。