日の丸を背負う男たちが「神話の里」に集結した。そのネームバリューは「伝説級」の一言。だが、決して聞こえのいい話ばかりではない。すでに選手を送り出した各球団からは、不安の火種がブスブスと燻り続けていて‥‥。
2月16日、侍ジャパンの強化合宿を前に、本拠地アリゾナでキャンプインを迎えたのはエンゼルスの大谷翔平(28)。WBC日本代表では投打の主軸として“フル回転”を期待されるが、キャンプ初日に見せ場を作ったのは「投」のほうだった。大リーグ評論家の友成那智氏が解説する。
「ブルペンで直球、スプリット、スライダーなどを37球投げ込みました。初日からブルペンに入るのは異例中の異例ですが、1月下旬にはキャンプ地のアリゾナ入りして、急ピッチでWBCに向けて体を仕上げてきたのでしょう。中でもこの日、入念に取り組んでいたのは、今季からMLBに導入される『ピッチクロック』対策。左上腕付近に付けた『ピッチコム』というサイン伝達機器を用いて、みずから捕手にサインを送りながら投げ込んでいました」
投手が打者に投げるまでの時間を制限するピッチクロック。走者なしで15秒、走者ありでは20秒以内に投球動作に入らなければ、ボール判定のペナルティーを科せられることになる。友成氏が続ける。
「昨季、大谷の平均タイムは、走者なしで21秒7、走者ありで26秒9とそれぞれ6秒以上もオーバーしている。そもそもMLBの平均が約18秒と約23秒。近年、変化球が細分化されたことで、球種選択に時間をかける傾向が強くなりました。多彩な球種を持つダルビッシュ有(36)をはじめ、MLB全投手が抱える喫緊の課題です」
しかしながら、新ルールはWBCに導入されず。日本代表に合流する3月上旬までのわずか半月足らずで順応する必要に迫られるのだ。
「他にも塁間に選手を3人置いたり、外野手を4人に増やすような極端な守備シフトが禁止になる。一部の投内連携に変更が生じますが、その確認作業は野手組が合流する20日以降から。一連のルール改正に置いてけぼりを食わないか心配です。さらに今季から正捕手をスタッシ(31)からオーハッピー(23)に代えるチーム方針もある。昨季8月に加入したばかりの“新顔”だけに、互いに距離を縮める時間も必要なのですが‥‥」(友成氏)
すでに登板指名されている3月31日の大リーグ開幕戦は待ったナシ。そんな春先の過密日程を心配する声は絶えない。スポーツ紙デスクが憂える。
「一番のリスクは故障です。09年大会の松坂大輔(42)が最たる例で、08年はレッドソックスで18勝しましたが、股関節痛を患ったままWBCに出場。大会後の4月に肩を故障して以降、キャリアは下降線をたどりました。WBCまでに予定されている実戦登板は26日のフリー打撃、3月2日のOP戦のみ。もし、決勝まで進出して登板しようものなら、開幕まで登板機会を与えられるかどうか不透明。いずれもぶっつけ本番でWBC&メジャー開幕戦を迎えることになる」
例年、秋口に息切れしてしまう大谷。今シーズンは無事に完走する姿を見せてくれるだろうか。