風呂の水を全部抜いたら、何が出てくるか──。
かつて昭和天皇が宿泊されたこともある、福岡県内の老舗旅館「大丸別荘」で昨年11月に、基準値の3700倍ものレジオネラ菌が検出されていたことが先ごろ、発覚した。県生活衛生課によると、
「きっかけは昨年8月、県外の観光客が帰宅後、レジオネラ症を発症したことです。立ち回り先のひとつだった大丸別荘を検査したところ、基準値の2倍のレジオネラ菌が検出されました。旅館はその際、県の公衆浴場施行条例に準じて浴槽の湯も交換、毎日掃除を行っていたと説明をしており、感染源とは特定されなかった。その後、11月に県の抜き打ち検査で浴槽から採取したお湯から、基準値の3700倍ものレジオネラ菌が検出されました。同菌の潜伏期間内に健康被害の訴えはなく、宿泊客の健康被害が出なかったのがなによりです」
県からの指摘を受けた旅館は自主休業。浴室を清掃し、12月に行った水質検査では基準値を下回ったことが確認されたため、年末年始の営業を再開したが、2月24日付の朝日新聞で「県に虚偽報告を行い、1年間に2回しか浴槽の湯を替えていなかった」「こうした状態が少なくとも2019年から続いていた」とする不衛生な管理が暴露された。
レジオネラ菌に汚染された循環式浴槽から飛沫を吸い込むことで、レジオネラ肺炎を起こすことがある。このレジオネラ肺炎というのは、厚労省のウェブサイトによれば、次のような説明がなされている。
〈全身倦怠感、頭痛、食欲不振、筋肉痛などの症状に始まり、咳や38℃以上の高熱、寒気、胸痛、呼吸困難が見られるようになります。まれですが心筋炎などの肺以外の症状が起こることもあります〉
重症になると中枢神経を冒され、意識不明に陥ることも。潜伏期間は最長で16日間。福岡県の担当者が言う通り、奇跡的に入浴客に健康被害が出なかったのは不幸中の幸いだろう。その上で、同旅館のレビューを見てみると──。
「温泉からは硫黄の臭いがします。本格的です」
「ぬるぬるしたお湯が体を包みます」
「評判のいいお湯なので、お風呂に入りながら温泉を飲みました。美味しかったです」
レジオネラ菌まみれのお湯を大絶賛するレビューには、失笑するしかない。
大丸別荘の泉質は、アルカリ単純泉。その泉質は確かに軟らかくトロッとしているが、硫化水素は含まれないため、硫黄の臭いはしない。年に2回しかお湯を取り替えず掃除もしなかったのだから、浴槽と湯水はヌルヌルするし、入浴客のアカ等のタンパク質が分解される際に発生する硫黄化合物の臭いもすることだろう。
ネットのレビューなんて所詮、この程度。誠実に顧客サービスを実践してきた店や旅館が悪質な嫌がらせレビューのせいで閉店、廃業を余儀なくされることもあれば、半年も替えていない風呂水を有り難がって星5つをつけるお花畑な客もいる。
「当該旅館も昨年12月からは県の指導に従っていますし、今は基準値を下回っています。二日市温泉街や他の県内の旅館の風評被害に繋がらないことを願っています」
福岡県はそう話しているのだが…。
(那須優子/医療ジャーナリスト)