新著「アメリカ映画に明日はあるか」(ハモニカブックス)を上梓した。大仰なタイトルだが、その真意を含めて、今回は少しその紹介をさせていただく。
映画雑誌「キネマ旬報」で連載している「ファイト・シネクラブ」から、アメリカ映画についての文章をまとめた。
この連載は2000年から始まり、今年で24年目を迎える。いわゆる映画の評論ではない。邦画、洋画の話が中心だが、作品論や俳優論にとどまらない。その都度の映画のトピック、映画興行の推移、映画システムの変化など、多岐にわたる。
総じて試写ではなく、映画館で見た映画について書くのが主眼だ。24年近く続いているので、結果的にそれらの文章は時代の移り変わりを反映する。
「アメリカ映画に明日はあるか」というタイトルにしたのは、アメリカ映画が2000年以降になると、日本ではしだいに人気に陰りが出てきたからにほかならない。これは邦画と洋画(アメリカ映画が主流)の興収シェアの推移で明らかだ。
1990年代には、洋画のシェアは圧倒的に高かった(70%を超えた年もある)。それが2006年あたりを境に、邦画と洋画の興収シェアは逆転する。2010年では、邦画54%に対して、洋画は46%。昨年はなんと、邦画69%、洋画31%である。
本の内容に触れれば、トム・クルーズで始まり、トム・クルーズで締めくくった(連載の文章)。偶然とはいえ、何やら象徴的な構成になった。
作品でいえば、前者は「M:I‐2」(2000年)、後者はもちろん「トップガン マーヴェリック」(2022年)。トムはアメリカ映画の良心の継承者である。
項目的には、9.11テロ事件後のハリウッド、「アバター」などの3D映画、アカデミー賞の変遷、「アナと雪の女王」のメガヒット、マーベル映画の快進撃、劇場公開と配信の同時展開、ネットフリックスの動きなどが並ぶ。
監督ではスティーヴン・スピルバーグ、マーティン・スコセッシ、クリント・イーストウッド、そしてジェームズ・キャメロンの作品に、比較的多く触れている。「作家性」という言葉はあまり使いたくないが、ギリギリ、そこにこだわり抜いた監督たちの作品が、やはり圧巻だった。ただ、この「作家性」は興行ともリンクしている。
今の話をする。正月映画であった「アバター:ウェイ・オブ・ウォーター」が、興収42億7000万円にとどまっている(2月26日時点)。並みの映画なら大ヒットだが、前作「アバター」(2009年)が156億円を記録していて、その三分の一以下だ。かなり物足りない。
それが世界市場だと、話は変わってくる。報道によれば、「アバター」続篇はすでに歴代3位となる22億ドルを突破したとのことである。この差はただごとではない。日本の映画市場がガラパゴス化しているのか。いや、違う。事態はそんな単純なことではない。
日本の特殊事情こそ、アメリカ映画の行く末と関係している気がしてならないのだ。いったいどこへ行くのか、アメリカ映画よ。
(大高宏雄)
映画ジャーナリスト。キネマ旬報「大高宏雄のファイト・シネクラブ」、毎日新聞「チャートの裏側」などを連載。「昭和の女優 官能・エロ映画の時代」(鹿砦社)など著書多数。1992年から毎年、独立系作品を中心とした映画賞「日本映画プロフェッショナル大賞(略称=日プロ大賞)」を主宰。2022年には31回目を迎えた。