何だろう、この楽しさ、ワクワク感は。まるで「小沢仁志祭り」ではないか。公開されたばかりの「BAD CITY」を見て、そう強く思った。主演は小沢仁志。
ファンは多いが、この俳優の名前にビビる人もいるかもしれない。コワモテの面構え、ドスのきいた声、横柄そうな態度。時代と寝ない、そぐわない、強烈な個性の持ち主である。
「還暦記念映画」だそうだ。そのキャッチにふさわしい、見事な出来栄えであった。
腐敗したある街が舞台である。オーバーではなく、「バットマン」のゴッサム・シティを連想する。街を牛耳っているのは、財閥と韓国マフィア。日本の極道組織は追い詰められている。
冒頭シーンが圧巻だ。大きな風呂場でくつろぐ全身総刺青の極道たちに、長ドスを持った殺し屋が迫る。無防備な極道たちは、なすすべがない。このシチュエーションの怖さは格別だった。
ある殺人容疑で勾留されているのが、小沢扮する元刑事・虎田だ。小沢が登場するまで、ある程度の時間があるのがいい。その間、財閥、韓国マフィアの不気味な動きをじっくり見せる。頃合いを見て、満を持した小沢が姿を現わした。
拘置所の中でフードをかぶり、座っている。この時は顔が見えない。それが絶妙なタイミングで、顔を見せる。白髪と真一文字の黒い眉毛。目は光っている。彼は検事長の計らいで釈放され、腐敗撲滅のもと、新設された特捜班の1人として敵に向かう。
「小沢仁志祭り」の意味は、彼を取り囲む豪華な俳優陣が、一致団結して小沢を盛り上げていく趣があるからにほかならない。その強い意志を、作品全体から感じた。小沢が乗った神輿を、全員でかついでいるような気さえしたくらいだ。
その代表として、リリー・フランキー(財閥トップ)、TAK∴(殺し屋)、加藤雅也(検事長)、山口祥行(韓国マフィア)、本宮泰風(韓国マフィア)らを挙げる。
皆、ことさら前にしゃしゃり出ようとしないのがいい。自身に与えられた役柄をしかと噛みしめ、中にある秘めたエネルギーを「祭り」に充満させていく。
加えて、「祭り」にしては異色な若い女性、坂ノ上茜(特捜班)が、溌溂たる演技を見せて心地よい。男社会のただ中にいるが、持ち前の気力、切れ味いい体技で、他の連中に遅れてなるものかと、「祭り」にはせ参じていく。
小沢の役は検察庁を辞めて刑事になったという、異色の経歴を持つ。ラスト近くで、その理由を語る。冷静な判断ができ、自己抑制力が強いことがうかがえる。世の中の仕組みをよく知る。コワモテの小沢が、心の奥にある真意を語るシーンだけに、ジーンとくるものがあった。
これを「BAD CITY2」「BAD CITY3」につなげてほしい。各キャラクターを独立させるスピンオフの形もあり得るのではないか。「祭り」なら、年に1回はあっていい。
(大高宏雄)
映画ジャーナリスト。キネマ旬報「大高宏雄のファイト・シネクラブ」、毎日新聞「チャートの裏側」などを連載。「昭和の女優 官能・エロ映画の時代」(鹿砦社)など著書多数。1992年から毎年、独立系作品を中心とした映画賞「日本映画プロフェッショナル大賞(略称=日プロ大賞)」を主宰。2022年には31回目を迎えた。