「めざまし8」といえば、今やMC谷原章介のトンチンカンなコメントが番組の「目玉」だ。視聴者が「問題はソコじゃない!」とツッコミを入れるのが朝の日常風景となりつつある。
3月10日に取り上げたのは「学童保育落ちた問題」。2016年には保育園に入れない待機児童が2万4000人を超え、「保育園落ちた日本死ね」というSNS上の恨み節も話題になった。
あれから7年。今度は小学生が利用する「学童保育」に入れないという問題が浮上しているというが…。
「めざまし8」によると、「学童落ちた」家庭は小学校高学年の子供を持つ家庭と、シングルマザー家庭。前者は「子供が高学年になるというので、上の子供も、低学年の下の子供も学童を断られた。これでは仕事を辞めなければならない」という。後者は「シングルマザーでこれから就職活動をするのに学童を断られ、民間の学童保育を利用すると高額になる」と窮状を訴えたのだが、現状はちょっと違う。
厚生労働省は、待機児童問題が注目された翌年の2017年4月から、障害のある児童が通う学童福祉施設の施設基準を厳格化した。それまでは定数オーバーに目をつむり、なんとか受け入れてきた福祉施設だけでなく、学童保育の現場でも定員超過が認められなくなり、高学年の学童保育が断られるようになったのだ。
「厚労省と都府県の、時代に逆行した学童施設などの厳格化」が徹底された2017年以降、小学校高学年の保護者は就学時に「定数オーバーのため、高学年になると学童保育からは追い出される」と、小学校から説明を受けている。親も子も学童を追い出されるXデーに備え、学童保育利用期間中に民間学童やベビーシッターを探す、あるいは留守番の練習をさせているのだ。
だから学童保育の子供や孫を持つ視聴者からすれば、「めざまし8」で不満の証言をしている親には「何を今さら」「5年間、何をやってきたのか」感しかない。SNSの残念な投稿を鵜呑みにするフジテレビの制作現場には学童保育利用者が1人もいないのか、と思ってしまう。
3男3女の父親である谷原のような「異次元の子だくさんパパ」に、公立小学校の学童保育の現実を知らずして「少子化問題」を熱く語られても、働くママ視聴者は虚しくなるだけである。もちろん、今の時代に6人の子供を育てる谷原夫人は、異次元にすごい。
シングルマザーの学童保育も「ひとり親世帯」には収入に応じた手当が支給されており、民間学童保育にも補助金を出している自治体が多い。しかも「めざまし8」で取り上げたシングルマザーは「これから就職活動」だという。シングルマザーであれ共働きであれ、親が働いていなければ、学童保育の申し込み資格を満たしていない(ただし国の少子化対策は、生活保護世帯が最優先で学童保育に入所できるという矛盾がある)。
7年前に「日本死ね」とSNSに投稿した親世代と子供が、新年度から小学校高学年に上がる。学童不足を取り上げてもらうのはありがたい反面、フジテレビとTBSといった、ネット界隈では「反日テレビ局」と揶揄されるところが急に「学童保育不足」のSNS投稿を取り上げていることに、恣意的なものを感じるのだ。
働く親が苦労するのは、厚生労働省による「シメ上げるけれども、カネはやらない」という無責任な政策に原因がある。それでも新型コロナ蔓延前までは学童保育不足の緊急避難策として、各学校が放課後に校庭や図書館を開放、学童保育に入れない子供に居場所を提供していた。新型コロナの感染対策が緩和されるのに伴い、各自治体が予算をつけて、校庭や図書館の開放を再開させれば済む話なのだ。
学童保育をめぐる環境が最も悲惨なのは、送迎バス内に園児を置き去りにして熱中症死させたリ、園児を逆さ吊りするなど保育園での「殺人」「虐待」が相次いだ静岡県だという。小学校低学年でも学童保育を利用できないそうで、犯罪者が子供を誘拐するなどの事件や事故が起きかねない。静岡県知事はリニアモーターカー問題でJR東海と戦うヒマがあったら、来月から放課後校庭や図書館で子供が過ごせるための警備員や見守り要員を確保する予算をつけてはどうだろうか。
(那須優子/医療ジャーナリスト)