3月17日に公開された竹中直人監督による10作目「零落」(配給:日活、ハピネットファントム・スタジオ)が、見どころ十分で楽しめる。
人気漫画家・浅野いにおの同名漫画の映画化で、自暴自棄に陥った人気漫画家の、哀しくも美しい人生を描いたもの。世間の煩わしさから逃げるように漂流する主人公がある日、性サービス嬢と出会うことで再生への道を歩み始める…というストーリーだ。
まず人気漫画家・深澤薫に扮した斎藤工の、役になりきった演技が素晴らしい。髪型からメガネ、話し方にいたるまで堂に入っていて、魅せられてしまう。おそらく、彼のこれまでのベスト演技だろう。
その相手をする趣里も、ミステリアスな雰囲気を漂わせて悪くない。ショートの髪型が決まっていて、これまでになく魅力的だ。
そしてなにより、竹中直人監督の絵づくりが秀逸。ロケーションが素晴らしく、さすが美大出身と言えるほど決まっている。その場所を、高低を生かして撮っているのが憎らしいところである。
それから、脚マニアぶりを見せるところも面白い。原作にもそうした場面は出てくるが、それよりもずっと多く楽しめる。これから見る人のためにネタバレは避けるが、ニヤニヤしてしまうこと請け合いだ。
「脚好きな映画監督というと、フランソワ・トリュフォーやルイス・ブニュエルがすぐに挙がりますが、彼らからの影響がうかがえて微笑ましい。ただ、ブニュエルほど毒はありませんが。それと、ネオンの使い方が実に上手い。そのあたりは竹中監督の大好きな故・石井隆監督の作品を思わせるのですが、彼ほど重苦しさを感じさせないのがいい」(映画関係者)
話は決して明るくはないが、全体にエレガンスに仕上がっており、好感が持てる。シネフィル(映画愛好家)に喜ばれそうな作品でありながら、一般の人が見ても十分に楽しめるだろう。
それにしても、竹中監督は第1作目も漫画家・つげ義春の「無能の人」を映画化した。かなりの漫画好きであることが分かる。
(若月祐二/映画ライター)