2005年にマンションなどの耐震の構造計算書を「偽造」する事件が起きたのを覚えているだろうか。いわゆる「姉歯事件」だ。一級建築士である姉歯秀次氏の偽造を国土交通省が公表し、すでに完成しているマンションやホテルも偽装されていたことが判明し、大騒動になった。結果的に07年に建築基準法と建築士法がより厳しく改正され、以後はこんないい加減な建築は行われない「はず」だった。
ところが、構造計算書の偽造ではないものの、建築中のビルの安全性を脅かす「ありえない事件」が発覚したのである。
先日、ゼネコン大手・大成建設が発表したのは「札幌市で建設中の高層ビル建設現場で、鉄骨の柱や梁などに施工不良があった」というもの。わかりやすく言うなら、設計通りの施工をせずに、サイズの異なるボルトを使用していたり、床などに使用しているコンクリートの厚みが規定以下になっていたのだ。さらには鉄骨の柱や梁など計70カ所に「傾き」があったという。
このビルはNTT都市開発が発注した、地上26階、地下2階の高層ビル。ビル内には店舗やオフィスの他に外資系の高級ホテルが入り、2024年2月に完成予定で、2割程度の工事が進んでいた。そんな建造物の中身が実にデタラメな手抜き工事だったのだから、唖然としたのは関係者ばかりではなかった。
「発注したNTT都市開発の社員が1月5日、現場で規格が異なるボルトを見つけたのが発端でした。大成建設がビルを調べたところ、品質管理を担う社員が実際に計った数値と異なる数値を、工事を管理している設計会社に報告していたといいます」(社会部記者)
大成建設は「この社員は工期が遅れる可能性を恐れて、数ミリ程度の精度不良なら品質上、問題ないと考えた」と説明した。当然ながら、作りかけのこのビルは、地上部分を解体して建て直すことになる。工期は2年4カ月延びて、完成予定は26年6月になるという。この一件で、大成建設の役員2人が引責辞任した。
「大成建設の罪は重いと言わざるをえません。『数ミリ程度の精度不良なら品質上、問題ないと考えた』など、開いた口が塞がらないとはこのことです。命を預かっている意識が欠如しているのではないでしょうか」(都内の設計事務所社員)
発注した側の社員が設計と異なるボルトの異変に気づかなければ、そのままビルが完成していたかもしれない。はたしてこの事件は超の付くレアケースなのか、それとも氷山の一角なのか…。