「あそこがゴミ屋敷です。私たち近隣住民は、なんとかしてほしいんですが」
福島県郡山市に住む50代の女性から情報をもらい、そのゴミ屋敷を取材した。40坪ぐらいの土地で、築10年ほどの比較的新しい外観であるが、玄関前の小さな庭となっている部分は地面が全く見えないほど、白いポリ袋が雪の様に積もっている。道路に面している部分にも、塀の高さ一杯にポリ袋や段ボールなどがハミ出すほどに積まれていた。玄関もゴミの山で、どうやら住人はそのゴミ袋をかき分けて中に入っていくようだ。
放火でもされたら、近隣の住宅に延焼しかねない状況だった。ゴミ屋敷の主には市条例に基づいてゴミの撤去をお願いしているというが、「ゴミではない」と主張して平行線のままだ。
ゴミ屋敷には70代半ばの男性Aさんがひとりで住んでいた。事情を聞くため、面会する。
小柄で白髪交じりのAさんは電気関係の会社に勤めていたが、定年になって妻とここに暮らしていた。受け答えは好戦的でもなく、いたって普通の老人である。
しかし妻が10年近く前に他界した後で、「思い出だ」と物に固執するようになり、捨てられなくなったのだという。
「オレの土地なんだから、何をしようと文句を言われる筋合いはない。ゴミ屋敷じゃないよ」
ゴミ屋敷という言葉に対し、反応は激しい。
「でも、近隣の方が困っているみたいだから、片付けた方がいいんじゃないですか。きれいにした方がいいですよ」
「うん…」
どうやら相談相手もおらず、地域でも孤立した生活を送っているようだ。
「オレだったら相談相手になりますよ」
取材後にAさんからは毎朝のように電話がかかってくるようになったが、根気よく話を聞いてあげた。結局、市がゴミを収集して、一件落着。
地域で孤立している老人は多く、それがゴミ屋敷への引き金だと私は感じた。もちろんそれが全部ではないだろうが、他のゴミ屋敷の取材でも、似たようなことが多かった。
環境庁は昨年、全国のゴミ屋敷の状況を調査し、このほど発表した。それによると、全国には5224軒のゴミ屋敷があり、都道府県別では東京都が880軒、次いで愛知県538軒となっている。
自治体はゴミ屋敷をなくすために条例を改正するよう動いているが、町内会でも孤立する老人が出ないようにする動きがなければ、抜本的な解決には至らない。難しいだろうが、自治体が音頭を取ってそのように動く、そして国がそれを支援するようにしてもらいたいものだ。
(深山渓)