「自分の役割は済んだ」――そう言い残して、政界を引退したのは小泉純一郎元総理だ。5年5カ月という長期の総理在任期間。自民党の総裁任期を全うしての退陣だった。
「政治家の引き際は政治家自身が決めるものですが、自民党総裁の任期を全うしての退陣といい、政界引退の決め方といい、小泉元総理の引き際はみごとでした」
そう語るのは小泉チルドレンの一人、元参議院議員の杉村太蔵氏だ。
小泉元総理が政界を引退したのは08年9月25日のこと。支持者を横須賀市の事務所に集め、
「選挙に出る時はみんなに相談し、辞める時は自分一人で決めるのが政治家だ。36年の議員生活にピリオドを打ちたい。支えてくれた皆様にお礼を言いたい」
と、みずから切り出したのだ。
杉村氏が続ける。
「小泉元総理はやりたいこと、やろうとしていることが凄くわかりやすかった。そのため、求心力があったのだと思います。総理就任後3カ月後に参議院選挙を経験していますが、それに大勝。結局、総理在任期間中、2度の衆院選挙に2度の参院選挙、そして2度の総裁選と計6回の大きな選挙に勝利している。こんな総理大臣は世界中探しても小泉さんだけですよ」
09年夏の衆議院選挙で政権を奪取した民主党だが、鳩山元内閣から菅内閣に政権が替わり、野田政権が誕生したものの、国民に信は問うていない。
「野田総理は、国会の所信表明演説でも触れなかった消費税10%への引き上げを、フランスのカンヌで外国首脳に向けて初めて公言した。消費税は最大の国内問題です。それを国際公約して帰ってくる。国民に対して、こんな失礼なやり方は小泉政権では絶対にありえない話です。マニフェストを修正するなら、解散して国民に信を問うべきです。また、内政力が高いと外交力も強まる。自分の国をしっかりまとめ切れている政治家は外交もうまい。野田総理もしっかりと内政を安定させ、力強い外交力を発揮してほしい。今のように、ただ頭を下げているのはどうかと思います」
その点、小泉元総理は国民に選ばれているという意識があっただけに、内政力も高く、外交力もあった。
「BSEの問題ではアメリカから圧力もありましたが、全頭検査という日本の主張を通した。毅然としていましたよ」
小泉元総理の盟友として深い交流のある森喜朗元総理は「小泉政権には功罪がある。改革は長いレンジで見なければわからないが、むしろ今は『罪』のほうが出ている」と、その政策が格差を助長した点を指摘した。
だが、マニフェストを修正したのに、公約に反して衆議院を解散しない野田総理とは雲泥の差だ。
「今の政権は国民に信を問うていないと、安倍政権をやり玉にあげた急先鋒は前原さんと野田さんでした。言っていることとやっていることが全然違うことに首をかしげざるをえないが、全然ぶれなかったのが小泉元総理でした」
その政策に賛否両論はあるにせよ、一本筋が通っている点は今の政治家と違うというのだ。
散り際の美学を守ったところにもそれは表れている。