投手と打者の「二刀流」でメジャーリーガーの度肝を抜き、今や「メジャーの至宝」と評されるエンゼルス・大谷翔平。その大谷が今、新たな伝説への一歩を踏み出そうとしている。
キッカケとなったのは、今年からメジャーリーグ(MLB)に導入された「ピッチクロック」。これは「投手がボールを受け取ってから投球動作を開始するまでの時間制限」のことで、新ルールではランナーがいる場合は「15秒以内」、ランナーがいない場合は「20秒以内」に、投球を開始しなければならない。
15秒以内ないしは20秒以内に投球動作に入るとなれば、これまでのように、捕手からのサインを悠長に確認する余裕はない。そこで大谷が捻り出したのが、すでにメジャーで使用が認められている「ピッチコム」を逆手に取り、「投手から捕手にサインを送る」という秘策だった。
ピッチコムは投手と捕手のサイン伝達に使われる電子機器で、主に対戦相手によるサインの盗み見を防止する目的で導入された。大谷は左肩付近に端末を装着し、ユニフォームの上からキーパッドを押して操作している。
そして通常は捕手がピッチコムのボタンを押して投手に球種のサインを送るのだが、大谷は自らピッチコムを操作して捕手に指示を送るという作戦に打って出たのだ。
事実、今季のアスレチックスとの開幕戦に先発投手として登板した大谷は、右手指でピッチコムを操作し、自らキャッチャーにサインを送っていた。ピッチクロックとピッチコムの事情に詳しいMLBウォッチャーは、次のように指摘する。
「ピッチコムを使ってサインを送っている投手は、大谷以外にも何人かいます。しかしその多くが、腕に装着したピッチコムのボタンを見ながらサインを送っているのに対し、大谷はボタンの見えないユニホームの内側に装着し、ボタンの位置を正確に記憶することで、ピッチコムを見ることなく操作しています。しかも大谷の場合、全ての投球について、自らサインを送っている。大谷は今、投手と打者の『二刀流』どころか、捕手まで加えた前人未到の『三刀流』を完成させようとしているのです」
われらが大谷は今、まさに「次元の違う進化」を遂げようとしているのだ。