4月2日に阪神競馬場で行われたG1・大阪杯(芝2000メートル)を鮮やかな逃げ切り勝ちで制した、ジャックドール(牡5歳)。同馬を念願のGI初制覇に導いた武豊の騎乗は、まさに「世界の名手」でなければできない「神業」だった。
9番ゲートから好スタートを切った同馬は、「持ったまま」のラクな手応えで1コーナーへ。大歓声の中、大外から北村友一騎乗のノースザワールドが競りかけるも、名手の放つオーラと貫禄、そして絶妙のコーナーワークで、あっさりとハナを奪った。
前半1000メートルの通過タイムは、平均ペースを上回る58秒9。だが名手はその後も11秒7─11秒5─11秒4─11秒4と、緩みのないハロン(200メートル)ラップで後続集団に脚を使わせつつ、同馬を最後の直線へと導いた。
そして最終の1ハロンを12秒5のラップで凌ぎ切ると、後方からマクリ気味に追い込んだルメール騎乗の1番人気スターズオンアースを「ハナ差」抑え、見事1着でゴールインしたのである。
ジャックドールは父のモーリスに似て、折り合いが悪い。そのため、逃げても逃げなくても、スローペースでは引っ掛かり気味となって、その実力を発揮できない。また、仮に折り合いよくスローの逃げに持ち込めたとしても、速い上がり(最終3ハロンでの速い脚)が使えないため、鋭いキレ脚を持つ後続馬にかわされてしまう恐れがあった。
つまり、同馬が抱えるこれらの弱点を鮮やかにクリアしてみせたのが、今回の「ユタカマジック」だったのだ。武豊と親しい競馬関係者も、次のように絶賛している。
「前半の1000メートルを58秒9の準ハイペースで引っ張り、その後も残り1ハロンまであえてペースを緩めることなく、ジャックドールの現時点での全能力を引き出した。今回の騎乗は、精巧な『0.1秒単位の体内時計』を持つ豊君でなければできない神騎乗でした。事実、この絶妙を極めた展開とペースとラップ以外、ジャックドールが大阪杯を制する方法はありませんでした。まさにサッカーW杯での『三苫の1ミリ』、WBCでの『源田の1ミリ』に並ぶ、『武豊の1ミリ』とでも呼ぶべき神業だったと言えるでしょう」
前人未到の通算勝利数を更新し続けている天才の手綱さばきからは、今後も目が離せない。