こうした状況に、「今年、『終着点』に向けて、一定の道筋がついたのではないか」と話し、次のように論ずるのは、先の競馬ライターである。
「天皇賞・春の前に行われる芝2000メートルの大阪杯(今年は4月2日に開催)がGIに昇格したことで、そして内容的にも興行的にも成功したことで、いちおうの決着を見た気がします」
中距離の「受け皿」として新設された大阪杯が及ぼす影響は小さくないだろう。
今後の競馬界について、厩舎関係者はこう話す。
「短距離王国のオーストラリアで最も人気のあるレースが芝3200メートルのメルボルンカップであるように、海外でも決して廃止されているわけではないんです。それどころか、欧州では長距離戦再評価の機運が高まりつつある。イギリスでは8月に行われるグッドウッドカップ(3200メートル)がGIに昇格したし、アイルランドやドイツでも、その傾向がうかがえる。サラブレッドの多様性の確保もあるのでしょうが、日本も見習う点があるように思えます」
日本の競馬はもともと、競馬発祥の地であるイギリスにならい、レース体系を作り上げてきた。当初は5つのクラシックレースに加え、春と秋の天皇賞(ともに芝3200メートル)、暮れの有馬記念の8つが大レース扱いだった。それが84年に距離別体系が確立され、同時にグレード制が導入されたことにより、大きな変貌を遂げることになる。
馬の使い分けが徹底されることになり、その結果、スプリンターやマイラータイプの馬にとって、大きなメリットが生じることになった。スプリンターズステークスや安田記念で活躍した馬には、種牡馬への道が開けることになったのだ。実際にスプリンター王だった種牡馬サクラバクシンオーは、6年前に急死するまでモテモテだった。
その逆に、ステイヤータイプは徐々に影が薄くなりつつある。距離別体系が確立される以前は純長距離タイプの種牡馬がいたものだが、それも今や皆無に近い。
「長距離レースといってもスタミナを競うというより、スローな流れで進み、直線でヨーイドンの競馬になりつつある。時代の流れと言ってしまえばそれまでですが、古くから競馬に親しんでいる人にとっては寂しく思えるのではないでしょうか」(馬産地関係者)
それでも長距離の大レースがなくなることはないと、トレセン関係者は断言するのだ。
「一つには、天皇賞・春を勝ったスペシャルウィークやマンハッタンカフェ、ディープインパクトなどが種牡馬として成果をあげているから。それぞれスピードと持久力にたけたGI馬を出しており、長距離もOKの万能型です。実際に、長距離のGIを勝った馬も出していますね」
もう一つは、時代うんぬんに関係なく、根強いファンがいるから。さる競馬ファンの男性が、
「1周回ってくる時の雰囲気が大好き。長い時間楽しめるし」
と言えば、別のファンも、
「母の父に中長距離馬の血が入っていないと、真の名馬は出てきません。それは歴史が証明しています。その意味でも、長距離戦は大事にしてほしい」
幸い今年の天皇賞・春(4月30日)は顔ぶれもそろい、見応えのあるレースが期待できそう。昨年のダービー馬マカヒキこそ距離を考慮して回避するものの、金子真人オーナーはその代わりに上がり馬のシャケトラを出走させる。期待のマンハッタンカフェ産駒で、キタサンブラック、サトノダイヤモンド相手にどれだけやれるか楽しみなのだ。
競馬界にとって、天皇賞というブランドはやはりまぶしいのかもしれない。