競馬界の至宝・武豊豊騎手が「日本ダービー」でまた新たな金字塔を打ち立てた。自身の記録を塗り替える6度目の制覇は史上最多、50代でのVは史上初で最年長記録も更新した。いまだ第一線で活躍する天才騎手の「肉体」について、専属トレーナーが激白する。
「ユタカ! ユタカ!」
5月29日、東京競馬場に詰めかけた6万2364人の観客から大きな拍手とともに「ユタカコール」が沸き起こった。
この日行われた「第89回日本ダービー」で武豊騎手(53)が騎乗したのは、単勝3番人気に支持されたドウデュースだ。スポーツ紙記者がレースを振り返る。
「7枠13番からのスタートで道中は後方の13、14番手。4コーナーを回って直線に向くと、抜群の手応えで前の馬を次々とかわし、残り200メートルを切ったあたりで先頭に立つと、イクイノックスの追撃をクビ差しのいでゴール板を駆け抜けた。ユタカさんは馬上で何度もガッツポーズを見せ、喜びを表していましたね」
武豊騎手がダービーを制したのは13年のキズナ以来6度目。50代のダービージョッキーは史上初で、「53歳2カ月15日」での制覇は86年(ダイナガリバー)に増沢末夫元騎手が記録した「48歳7カ月6日」を36年ぶりに塗り替える、史上最年長優勝記録となった。
リーディング上位に20代から30代の騎手が並ぶ中、なぜ、50代の武豊騎手は第一線で活躍できるのか。「テイクフィジカルコンディショニングジム」(京都市・右京区)の代表で、武豊騎手の専属トレーナーを務める長谷川聡氏が「肉体の秘密」について明かす。
「ユタカさんは『自分の体は硬い』と言いますが、一般的な50代男性と比較しても十分柔軟で体幹も強い。特に股関節の柔らかさには驚かされます。股関節の柔軟性によって、衝撃を股関節で吸収でき、上半身がブレない。馬にかかる負荷も少なくなる。ユタカさんが特別優れているのは、そうした柔らかさなんです」
そもそも長谷川氏と武豊騎手が出会ったのは、10年3月27日に阪神競馬場で行われた「毎日杯」での落馬事故がきっかけだった。京都大学医学部付属病院に搬送され、左鎖骨遠位端骨折、腰椎横突起骨折、右前腕裂創で全治6カ月の診断。その時にリハビリを担当したのが、理学療法士の長谷川氏である。
「事故後は左肩にプレートを入れていましたから、2~3カ月は腕を上げることもできず、腰痛もひどくなっていきましたね」(長谷川氏、以下同)
だが、リハビリの効果があり、わずか4カ月(127日)で戦列復帰。この時の落馬事故がキッカケでトレーニングへの意識が変わったという武豊騎手はその後、長谷川氏と二人三脚で体のケアに努め、13年にキズナで5度目のダービーを制覇。18年には前人未到のJRA通算4000勝を達成した。