莫大な大金を得る成功者の数だけ、奈落の底に蹴落とされる選手も存在する。これがメジャーの掟だが、もちろん、米球界でシノギを削る“侍10人衆”とて例外ではない。開幕してわずか半月足らずの現在地は雲泥万里。早くも男たちの運命の歯車は、ミシミシと回り始めている──。
「エンゼルスで最も丁重に扱われる存在ですよ。ネビン監督(52)でさえもお伺いを立てるような言葉遣いになりますからね」
そう声を潜めて話すのはMLB担当記者。指揮官からも畏怖の念を抱かれているのは、エンゼルスの大谷翔平(28)だ。今季も代名詞の二刀流は平常運転。開幕2カードで1勝、2本塁打を記録した。大リーグ評論家の友成那智氏が諸手を挙げて絶賛する。
「WBCのために仕上げたコンディションを継続できています。何より今季から『極端な守備シフト』が禁止されたのは『打者大谷』にとって朗報ですよ。昨季は守備シフトが敷かれた場合と、そうでない場合で出塁率に3分8厘もの差が生じました。大谷の打席で88%敷かれていた守備シフトの“障壁”がなくなれば、出塁率はもとより、打率が上昇するのは自然な話。打率3割に到達するのも夢物語ではありません」
チームメイトの好調ぶりも大谷を後押しする。
「開幕2カードで、1番ウォード(29)と2番トラウト(31)が3割半ばのハイアベレージを残している。これでは3番大谷と対戦する前に、相手投手は心身を消耗してしまうでしょう。昨季よりも大谷に対する警戒が薄くなるでしょうから、シーズン40本塁打は固い数字になる。当然ながら、塁上にランナーがたまった状態で打順が回る機会も増えます。大谷の前を打つ2人の好調がキープできれば、キャリアハイを超える110打点も余裕でクリアできますよ」(友成氏)
反対に不安材料がチラつくのは「投手大谷」。MLB担当記者は「早仕上げが災いして中盤戦以降の失速が危惧される」として、こう続ける。
「今季はWBCからスタートしたロングランのシーズン。ここ数年は後半、打撃成績を落とす傾向にありましたが、今季は投球面でバテてしまう公算が大きい。もし休みながらの起用になれば昨季(15勝9敗、防御率2.33)よりも成績を落とすのは避けられない」
しかしながら、そんな不安のタネは些末な問題にすぎない。むしろエンゼルスが頭を抱えるのは、大谷の去就問題である。
「すでに契約延長を巡る下交渉は始まっていて、大谷の機嫌を損ねないように首脳陣も細心の注意を払っている。FAになった場合、12年6億ドルの契約が見込めるとも言われていますが、エンゼルスもチーム総年俸約2億1000万ドルをさらに拡大して“残留マネー”を確保する方向で調整中。とはいえ、大谷が最も求めているのは優勝争いのできるチーム。今後のチーム状況しだいでは契約がまとまらず7月末にトレードに出す線も捨てきれません」(MLB担当記者)
そんな大谷に先んじて、2月に6年の長期契約を結んだのがパドレスのダルビッシュ有(36)。先発した4月5日(日本時間、以下同)のダイヤモンドバックス戦では、5回1失点も6四死球を出す乱調だった。
「今年はメジャーのキャンプには参加せず、宮崎合宿から日本代表に合流するという変則的な調整方法だった。WBCの時もそうですが、いまだ本調子とは言いがたい。パ軍はMLB最年長勝利記録(49歳151日)を持つモイヤー(60)のような存在になることを見込んでいますが、今年はWBCの影響で例年より長いシーズンを送ることになる。選手生命に関わる故障をしないか、チーム編成関係者は気をもんでいます」(MLB担当記者)
かつて公言しながら撤回した「23年オフの引退」。もし長期契約を結んだ直後に現実となってしまったら‥‥。杞憂であることを願うばかりだ。