阪神の歴代助っ人の中で、「2億7000万円の大型扇風機」と揶揄されたのが、ロブ・ディアーだ。
メジャーリーグのジャイアンツ、ブリュワーズ、タイガース、レッドソックスで通算10年間プレーし、通算226本塁打という実績を引っ提げて、年簿2億7000万円という破格の条件で1994年に入団。
その飛距離はすさまじく、高知県安芸市で行われていた春季キャンプではフリー打撃で放った打球がしばしばスタンドを飛び越えるため、急きょ「ディアーネット」が設営されたほどだった。
球団関係者からも期待の声が上がったが、公式戦に入ると、とにかくバットにボールが当たらない。当たらなければ、本塁打は生まれない。特に外角の変化球を面白いように空振りし、三振の山を築き上げていく。
結局、わずか70試合に出場したのみだったが、喫した三振は76個。8月には右手親指靱帯断裂を理由に帰国してしまった。打率1割5分1厘、8本塁打、21打点という散々な成績に終わったのだ。
当時、ディアーに関する奇妙なウワサが、球団の内外を駆け巡っていた。記録した本塁打8本がデーゲームばかり。「ディアーは鳥目だ」というのだ。
鳥目は夜盲症と呼ばれる。暗部の視力が著しく衰え、目がよく見えなくなる病気のことで、原因はビタミンA不足といわれている。
過去、プロ野球界では、練習中のボールが目を直撃したため、極端に視力が低下する選手がいた。ナイターでは結果が出ず、引退を余儀なくされた者もいたが、健全な状態で「鳥目」呼ばわりされたのは、ディアーしかいない。
だが実際は、阪神の調査不足といわれても仕方がない状況だった。なにしろ阪神入団前の10年間で1130試合に出場し、三振はなんと1379。打率は2割2分しか残していない。
阪神退団後はパドレスで1年間プレーしたが、その時も出場25試合で、50打数30三振。目の問題そのものより、そもそも実力不足だったのだ。
(阿部勝彦)