今年3月に行われたWBCでは、イタリアやオランダ、イギリスが欧州勢として出場。世界中の野球ファンを沸かせた。この3カ国はいずれもサッカー大国として知られるが、欧州四大リーグのひとつであるドイツは出場していない。今現在、ドイツは野球発展途上国だ。
そのドイツ(旧西ドイツ・バイエルン州)生まれという珍しい経歴を持つ、阪神の外国人選手がいた。1999年の1シーズンだけプレーした、マイク・ブロワーズだ。
このブロワーズは父親の仕事の関係で、小さい頃にアメリカに移住。ワシントン大学でプレーした後、1986年のドラフトでエクスポス(現ナショナルズ)に入団した。その後、ヤンキースやドジャースなど、名門チームを渡り歩いている。
メジャーで2ケタ本塁打をマークしたこともある長打力を買われ、99年に年俸2億2000万円という好待遇で阪神に入団した。実はこの時、妙なウワサが流れている。
98年はアスレチックスでプレーしていたが、この年を最後に、引退を決意。第二の人生を踏み出す準備をしていたところ、阪神が破格の条件を提示し、日本に連れてきた、というものだ。野村克也氏も自著の中で、このウワサ話を披露している。
これは事実なら、金に目がくらんで引退を先延ばししたことになる。いくら実力があったとしても、一度切れた緊張の糸はつなげなかったのだろう。当初は4番・三塁で出場していたが、打撃好調の時期はわずかで、8月に入るとスタメン落ちし、そのまま解雇されてしまった。
この電撃解雇の背景には、阪神が結んだある意味、屈辱的な契約がある。「どんなに不振でも、1軍以外ではプレーさせない」という2軍拒否条項だ。
ブロワーズの不振の原因は、日本の投手の変化球に戸惑ったことにある。だが、シーズン中に1軍の試合に帯同する限りは、調整や投手対応のための十分な打ち込みはできない。変化球を打てるようにならなかったのは、仕方がないだろう。
だが、2軍での調整を命じられない限りは、解雇する以外に道はなかったのだ。
(阿部勝彦)