やっぱりな、というのが正直な感想やな。WBCの日本代表メンバーの多くが故障や不振で苦しんでいる。右ふくらはぎを痛めた西武・山川や、左太ももを痛めたソフトバンク・牧原など、足まわりのパンクが多い。いつもの年なら春季キャンプの1カ月でじっくり鍛えるところが、WBCに間に合わせるために急仕上げとなったのが原因やと思う。いちファンとしては開幕前から野球を思い切り堪能させてもらったけど、選手のためには開幕直前という開催時期は検討し直したほうがいいやろうね。
そんな状況の中で、二刀流で大会MVPを獲得したエンゼルス・大谷の開幕後の働きには驚かされる。4月中旬からの17連戦に全試合出場して、その間に3度も先発登板した。監督が「休め」と言っても聞かないという。心技体すべて兼ね備えており、まさに100年に一人の選手とつくづく思う。僕らの現役時代のパ・リーグは17連戦も普通にあったけど、思い返してみるとやっぱりきつかった。特にナイターのあとのデーゲームは5回ぐらいまでは体が寝ている感じがした。
大谷は昼寝も合わせて、1日12時間以上寝ることもあると聞く。これこそ超一流のプレーを支える秘訣。僕はいつも「いくら盗塁しても、疲れなんか寝たら取れる」と言い続けてきたけど、大谷が実践している。眠りについていなくても、横になって目を閉じているだけで疲労回復の効果はある。移動中でも練習の合間でもどこでも寝られるというのもプロの技のひとつ。
毎日、気持ちよく眠れてないやろうなと思うのが、ヤクルトの村上。昨年は56本塁打で三冠王に輝いた打者が4月を終えた段階で打率1割5分7厘、2本塁打。25試合で39三振は明らかにバッティングがおかしくなっている。WBCで大谷の打撃を練習から見て、上には上がいると自信をなくしたのかもしれん。負けたら次がない試合でプレッシャーのかかる打席を経験した一方で、今は負けても毎日試合が続く打席に立っている。世界一になって燃え尽きた部分もあると思う。昨年まではここぞの場面で打っていたのに、ファンの期待に応えられないもどかしさを本人がいちばん感じているはず。メンタル面が不振の要因となっているのは間違いない。
気持ちだけでなく、技術的にも大きな狂いがある。速い球に差し込まれて空振りしたりファウルになっているし、狙いが外れたかのような見逃し三振も多い。タイミングを取るのが遅く間が取れていないから、ボールの見極めができないし、振り遅れてしまう。
タイミングを早くするだけなら簡単に直ると思われそうやけど、経験した者でないとわからない難しさがある。タイミングを早めて打とうと心がけても、早く動きすぎている気がしてしっくりいかない。練習で打撃投手の球は打てても、試合になると徹底マークにあって簡単には勝負してくれないから余計にそうなる。
村上は日々、必死に練習して復調を目指しているはず。スランプ脱出に特効薬はない。だからあえて言いたい。「しっかり寝なさい」と。大谷のように1日の半分ぐらい寝て、心身ともにリフレッシュすることが大切。練習しないのも練習のうちやから。頭の中を空っぽにして次の試合に臨めば何か変わる可能性がある。きっかけさえつかめば「村神様」は復活する。
福本豊(ふくもと・ゆたか):1968年に阪急に入団し、通算2543安打、1065盗塁。引退後はオリックスと阪神で打撃コーチ、2軍監督などを歴任。2002年、野球殿堂入り。現在はサンテレビ、ABCラジオ、スポーツ報知で解説。