昨季15位から大躍進! サッカーJ2リーグは第18節(5月28日)を終えて、FC町田ゼルビアが首位に立っている。その背景には異色の経歴を持つ新監督の存在があった。プロスポーツ界の常識を覆した驚愕人事の秘密に迫る。
「まさかプロの壁を打ち破るとは‥‥。高校サッカーで実績を残してもプロでは通用しないと言われていましたから」
スポーツライターが驚きをもって称賛するのは、今季からFC町田ゼルビアで指揮を執る黒田剛監督(53)。昨年までの約30年間、高校サッカーの名門・青森山田高校の監督を務め、高校総体を含めて7度の全国制覇を成し遂げた。
「黒田氏が青森山田の監督に就任した94年当時、部員は20人にも満たなかった。豪雪地帯というハンデを背負いながら全国でも指折りの強豪校に育て上げ、全国選手権では5度も決勝に進出し、3度の優勝を飾りました。ちなみに現在、部員は中学と高校を合わせて300人以上の大所帯となっています」(前出・スポーツライター)
今季からJ2の監督に就任した黒田監督だが、シーズン開幕前には懐疑的な声も聞かれた。というのも、苦い“前例”があったからだ。
「市立船橋高を4度の全国選手権制覇に導いた布啓一郎氏(62)は、03年に高校を退職後、U─16日本代表監督などを経て、18年に当時J3だったザスパクサツ群馬の監督に就任。2年でJ2昇格を果たし、その後、指揮を執ったのが松本山雅FCとFC今治。いずれも成績不振を理由にシーズン途中で解任されています」(前出・スポーツライター)
野球にたとえるなら、大阪桐蔭の西谷浩一監督(53)が阪神タイガースを率いるようなものか。
チーム関係者は黒田監督をこう評する。
「30年間、監督をしながら教鞭を取っていただけあって、とにかく伝える力に長けています。チームミーティングにしても、会見にしても、理路整然としてわかりやすい。選手たちは小さい頃からサッカー漬けの生活を送ってきましたから、どうしても座学は苦手になりがち。ところが、『黒田先生の話は60分でも90分でも聞いていられる』と選手たちの間でも好評です」
町田の強さを象徴するのが失点数だ。6月1日時点で10失点は東京ヴェルディの9に次いでリーグ2位。18試合を終えて9試合を無失点に抑え、2点以上取られたことがない。
「とにかく相手にシュートすら打たせずに無失点で時計の針を進め、少ないチャンスをモノにするのが黒田サッカーの真骨頂。高校サッカーでは大会の多くが負けたら終わりというノックアウト方式。隙のない堅牢な守備体系がプロのピッチでも完成されつつあります」(前出・スポーツライター)
もちろん、戦術だけで勝てるほどプロの世界は甘くない。町田は開幕までに大型補強で19人の選手が新加入。中でもJ1で優勝経験があるブラジル人FWエリキ(元横浜FM)は前線の決め手となっているが、サッカージャーナリストの六川亨氏はこう語る。
「ポゼッションサッカーでパスをつないで得点するのが理想ですが、ロングスローを活用するなど、セットプレーで膠着状態を打破できるのも町田の強み。国見高校の小嶺忠敏監督(故人)をはじめ、高校サッカーの名将たちが紡いできた戦術が生かされているのを感じます」
果たして、黒田監督は町田をJ2優勝に導けるか。
「これまでの戦いぶりを見る限り、大崩れすることはないでしょう。夏場になれば、どのチームでも主力の故障や離脱が懸念されますが、その時に選手層の厚さをどう生かすか。それこそ、高校サッカーでトーナメントの連戦を勝ち抜いてきた黒田監督の腕の見せどころではないでしょうか」(前出・六川氏)
シーズンは折り返し地点にも達していないが、“プロ1年生”が率いる町田にがぜん注目が集まっている。