前回はセ・リーグの個人タイトルを話題にしましたが、タイトル以上に価値のある記録が生まれました。日本ハム・大谷が9月7日のオリックス戦(京セラD)の4回一死、バックスクリーン右へ10号ソロを放ちました。プロ野球初の同一シーズン「10勝&10号」の達成です。メジャーでも、あのベーブ・ルースが1918年に達成しただけの歴史的な快挙です。
マスコミは逸材が登場するたびに「10年に一人」や「50年に一人」などの表現を使いますが、大谷はまさしく「80年に一人」の男です。日本にプロ野球が誕生して約80年がたちますが、二刀流として誰一人できなかった数字を残したのです。
身長193センチ、体重90キロの恵まれた体から、160キロを超えるボールを投げ、打席では広角にスタンドインさせるパワフルなスイング。我々の現役時代には考えられないスケールの大きさです。2010年代という時代が生んだスーパースターとも言えます。
考えてみると、一般的な洋服のサイズも同じLサイズでも、今のほうが昔より大きいと聞きます。それだけ日本人の体格が変化してきたのです。欧米の食文化が完全に浸透し、科学的なトレーニングも発達。インターネットの普及により、情報もあふれています。今の若い選手は高校時代からプロと同じようなトレーニングができる環境が整っているのです。
昔も体格だけなら、ジャイアント馬場さんやジャンボ仲根さんなど、大谷以上の選手がいました。でも当時は科学的なトレーニング方法がなく、規格外の体の選手を教えることのできる指導者もいなかった。大きい体を効果的に使いこなすことができなかったのです。身長209センチのジャイアント馬場さんが今の環境で野球をやっていれば、とんでもない投手になっていた可能性があります。
大谷の打撃面を分析すると、1年目よりも腕をうまく使えるようになりました。腕が長い分だけ窮屈そうに見えていたのですが、今年のほうが楽にスイングしている感じです。私が仮に大谷に教える立場だとしても、今のまま自由にやらせるでしょう。これだけの結果を残しているのですから、いろいろと細かいことを修正すると、よさを消してしまいます。自分の感覚で肩、腰、膝をレベルに使ってくれ、と言うぐらいです。
なぜ「自分の感覚で」という前置きをするかというと、彼と私はまったく体形が違うのです。スイング中に少し左肩が下がっているように見えますが、これも背が高いからそのほうが理にかなっているのかもしれません。大谷のような規格外の選手には、指導者も柔らかい頭で接しないといけないのです。
例えば内野の守備でも今と昔とでは理論が違ってきて当然です。腕が長ければ膝を曲げなくてもグラブは地面に着くのです。ヤンキースの名遊撃手のジーターのように、腰高でもいいのです。我々の時代は股を割って、腰を落とせ、と口を酸っぱくして教えられましたが、そういう時代ではなくなっています。
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