岸田文雄総理は6月13日の記者会見で、今国会中の衆院解散・総選挙の可能性について「諸般の情勢を総合して判断する」と述べ、含みを残した。これまで「今、解散は考えていない」としてきただけに、永田町では解散に打って出るとの見方が一気に広がった。ところが、足元の自民党では「とても解散をするような状況ではない」との悲鳴が聞こえてくるのである。いったいなぜなのか。
理由は岸田総理の指示により、自民党が性的少数者らLGBTへの理解を増進する法案の成立を目指していることにある。当事者である支援団体「LGBT法連合会」は、6月13日に法案が与党や日本維新の会などの賛成多数により、衆院本会議で可決されたことを受けて、
「私たちの求めてきた法案とは真逆の内容。強く非難する」
と猛反発。同じような世論が広がっている。作家の百田尚樹氏などは、LGBT法案が成立すれば、自民党に対抗して「保守新党を設立する」とまで宣言した。
そればかりではない。メディアの中で「岸田総理の最大の理解者」とみられていた読売新聞が6月13日の社説で〈LGBT法案 首相と自民党の見識が問われる〉と、対応を批判したのだ。
「これは岸田さんにとっては、大きなショックとなった」(自民党閣僚経験者)
読売新聞社説は、自民・公明両党案にあった「性同一性」を、日本維新の会と国民民主党の案「ジェンダーアイデンティティ」に改めたことについて、〈意味は同じだというが、あまりにもわかりにくい。理解しにくい言葉を使いながら、「理解増進」とは何事か〉とコキ下ろした。
さらには「男性」にもかかわらず「女性だ」と称して、女子トイレや女子風呂を利用するケースがあることを挙げて、〈新法を盾に、現行の禁止規定を「不当な差別だ」と主張する口実に使われかねない〉と、もっともな懸念も示した。
そして最後に再度、コキ下ろしのトドメを刺したのである。
〈会期内成立に舵を切ったのは、岸田首相だという。法制化を強く求めてきた公明党への配慮からだとされている。衆院選の候補者調整を巡って、ぎくしゃくした公明党との関係を修復する狙いがあるのだとすれば、筋違いも甚だしい。首相は、自らの見識が問われていることを自覚してもらいたい〉
読売新聞を率いる渡辺恒雄読売新聞グループ本社代表取締役主筆は、岸田総理の父・文武氏と旧制東京高校時代の同級生であり、総理は渡辺氏の開成高校の後輩にあたる。そのため、岸田官邸で読売新聞は他の新聞とは「別格」とみられている。それが反旗を翻したとなると…。
解散するのなら、岸田総理は「身内」である読売新聞の疑問に、正面から答えるべきだろう。