岸田文雄首相はかねてから「聞く力」をアピールしているが、自民党支持層に対しては「聞く耳」を持たず、公明党の支持母体たる創価学会の支持が欲しいようである。
首相の「強い指示」(自民党国対関係者)によって、LGBTなど性的少数者への理解増進を図る法案が成立する運びになった。
与野党は6月9日の衆院内閣委員会で審議入りし、自民党は自公案を即日採決。13日の衆院本会議に続いて参院でも同様に委員会で即日採決し、16日には成立させる方針だ。
この法案をめぐっては、公明党の山口那津男代表が記者会見で、
「終盤国会の中で衆参、与野党ともに議長国としての役割を国際社会に示す必要がある。ここが出来上がらなければ、広島サミットが画竜点睛を欠くと言っても過言ではない」
と述べるなど、成立を強く求めていた。
公明党は次期衆院選をめぐる候補者調整での対立から、東京では全ての小選挙区で自民党候補を推さないという強硬方針を表明した。困った岸田首相は公明党と創価学会をなだめるためにも、公明党が強く求めるLGBT法案の成立を図る方針に舵を切った。
もっとも、これで赤っ恥をかかされたのが、自民党の萩生田光一政調会長だ。萩生田氏は法案提出までは認めるものの、周囲に「吊るしておく」と話し、審議未了⇒廃案の青写真を描いていたからだ。保守派の批判の矛先は、最大派閥安倍派の幹部でもある萩生田氏にも向かうことになる。
安倍派はLGBT賛成派と反対派に割れているが、反対派は法案に反対するか、白票を投じるか、あるいは造反かの決断を迫られることになる。
「岸田首相にとっては、自身が会長を務める宏池会(46人)の2倍以上の規模を誇る安倍派(100人)は、かねてから目の上のタンコブだった。萩生田氏をはじめ、安倍派の議員が右往左往するのを見て、痛快に思っているかもしれない」(自民党関係者)
もっとも、保守派は自民党の岩盤支持層でもある。目先の「学会票」にばかり気を取られ、次の衆院選ではこの層が自民党から離れ、日本維新の会などに流れるしっぺ返しのリスクを、岸田首相は分かっていないようだ。