口は禍の元とはよく言ったものだが、ついつい世間で盛り上がる話題に乗って気の利いたことを言おうとしてしくじり、すっかり株を下げてしまったのが、2015年当時、官房長官の職責にあった菅義偉元総理ではなかろうか。
コトの起こりは同年9月28日、福山雅治が突然発表した〈本日9月28日、私、福山雅治は、吹石一恵さんと結婚しました〉という、電撃結婚の一報だった。長年独身を貫いてきた「最後の大物」と、清純美女との結婚。ニュース速報が流れるや、日本列島がこの話題一色に包まれたことは言うまでもない。
2人の関係が発覚したのは、2012年1月だった。ペットのウサギを連れ、福山のマンションを頻繁に訪れる吹石の姿を写真誌「FRIDAY」がキャッチ。しかし双方の事務所は交際を否定し、福山ファンからのバッシングもあって、芸能記者の多くが2人は破局したとみていた。しかし2人の関係は、深く静かに潜航していたのである。
そして日本中が電撃結婚のニュースに沸く中、たまたま翌29日、菅氏は情報番組「直撃LIVEグッディ!」(フジテレビ系)に生出演。この話題を振られると、
「この結婚を機に、ママさんたちが一緒に子供を産みたいとか、そういう形で国家に貢献してくれればいいなぁと思いますねぇ」
と発言。するとその直後の定例会見で「女性からみれば、結婚は子供を産むのが前提ととられかねない発言では」との質問が続出。菅氏は釈明に追われる。いわく、
「全くそういう趣旨ではない。結婚や出産が個人の自由であることは当然だ。たいへん人気の高いビッグカップルなので世の中が明るくなり、幸せな気分になってくれればいいなぁというふうに思う中の発言だった」
政治部記者に話を聞いてみると、苦笑いしながらこう答えた。
「菅さんはマジメで、とにかく不器用。むろん、芸能界のことは全く知らないはずです。単純におめでたいニュースに便乗し、うまいことを言おうと思ったのでしょうが、女性にとって妊娠は非常にデリケートな問題ですからね。しかも、子供を産むのは国家のため、というのはまずかった。ま、便乗するつもりが完全に裏目に出たということでしょうね」
当時、菅氏は安倍内閣が設置した「すべての女性が輝く社会づくり本部」副部長も務めていただけに、不用意な発言だったことは否定できず。「セクシャルハラスメント発言だ」「女性蔑視も甚だしい」「政治家が謝罪してきた経緯を全く無視している」等々、まさに口が災いする、批判続出のトホホな顛末を迎えることになってしまったのである。
(山川敦司)
1962年生まれ。テレビ制作会社を経て「女性自身」記者に。その後「週刊女性」「女性セブン」記者を経てフリーランスに。芸能、事件、皇室等、これまで8000以上の記者会見を取材した。「東方神起の涙」「ユノの流儀」(共にイースト・プレス)「幸せのきずな」(リーブル出版)ほか、著書多数。