朝日新聞社社長の謝罪会見の翌日、全国紙の1面トップは、この話題で埋め尽くされた。「朝日『東電撤退』記事を謝罪」(読売新聞)、「朝日社長、誤報認め謝罪」(毎日新聞)、「『命令違反で撤退』取り消し」(産経新聞)‥‥。本当に鬼の首を獲ったかのようなバカ騒ぎをしていいのか? そこで、朝日以外の主要全国紙の「大誤報」を徹底的に研究。すると、出るわ出るわ。“伝説の山”なのであった。
まず、朝日の最大のライバル読売から。12年10月に「偽iPS男」に振り回されたことは記憶に新しいところだ。「ハーバード大学客員講師」の肩書で登場した森口尚史氏の虚言を信じて、「iPS細胞を使った世界初の心筋移植手術を実施した」と報じたのだ。
この読売のスクープに、毎日、産経、共同通信などが後追い報道をしたものの、各方面から多数の疑義が寄せられた。報道からわずか2日後に読売は「同氏(森口氏)の説明は虚偽」とし、早々と白旗を上げた。
一見すると、潔くみずからの非を認めたように見えるが、読売の検証記事をよく読めば、そうではないことがわかる。記事中では、過去に森口氏の研究の記事を掲載した日経新聞、毎日、朝日についても言及。他紙の検証や担当者のコメントを掲載した。
まるで朝日の慰安婦報道検証記事のような出来栄えである。
また、自社の編集局長らの社内処分を発表する一方で、その後も共同通信も含めた他紙の社内処分の経過もつぶさに報道しており、ダマされたのは「自分1人じゃない」とでも言いたげな往生際の悪さを見せつけている。この粘り強さを、第一報の裏付け取材で発揮してほしかったものだ。
他にも読売はやらかしている。連続幼女誘拐殺人で逮捕された宮崎勤元死刑囚の捜査中の誤報だ。「宮崎のアジト発見 3幼女殺害の物証を多数押収 小峰峠の廃屋」(89年8月17日付夕刊)と題された記事である。
同記事では警視庁・埼玉県警合同捜査本部が「宮崎が頻繁に出入りしていた秘密アジトを突き止め」、その奥多摩山中の山小屋で「有力物証多数を押収」し、遺体を放置した場所も「このアジトと断定」したと報じた。まさに、事件の核心に迫る内容だったが、報道が出たその日の晩に合同捜査本部が「事実に反する」と表明。すぐさま「おわび」を出すハメに。〈『山小屋アジト発見』、『物証押収』、『遺体放置場所と断定』と書いたのは誤りでした〉と、誤りを認めた3点は見出しそのもの。記事全てがデッチ上げということになる。
一方、社論として朝日と真っ向から対立する産経だが、誤報が国際レベルなのは朝日と同じだった。
11年7月7日の「江沢民前中国主席死去 84歳 改革開放路線を推進」という記事だ。当初、その日の朝刊で香港メディアが江沢民氏死亡説を報じたとアッサリと伝えたのだが、産経は確信を深めていく。
そして、同日の大阪夕刊1面や電子版でドカンと江沢民氏死去と報道。当時の胡錦濤国家主席と、次の主席候補と目されていた習近平氏の政治的パワーバランスの崩れまで熱心に解説していたのだが‥‥。
同年10月10日付の産経に「江沢民氏、10カ月ぶり『登場』の意味は‥‥」という記事が掲載される。多くの読者は生き返った「意味」を知りたいと思ったことだろう。もちろん、同じ紙面で読者の疑問にも答えている。「『江沢民氏死去』報道の経緯について」という検証記事を掲載。その後、産経では編集幹部が引責辞任している。
朝日が「吉田調書」の誤報を認めるまでに4カ月を要し、産経は3カ月で謝った。産経が「遅きに失した」と責めるのも無理はないか?