朝刊の1面といえば新聞の顔である。だが、そこにライバル紙のシンボルが載るという珍事が発生。その騒動の内幕に迫った。
いつものように「朝日新聞」を手に取った記者は違和感を覚えた。
──今、読んでいるのは「産経新聞」じゃないよな?
違和感の理由は1面トップの朝日新聞と書かれた題字の下にあった。フジサンケイグループのシンボル「目玉マーク」が鎮座していたのだ。
それは10月25日付の朝日朝刊の広告だった。もちろん、他紙の広告が載るわけがなく、あくまで「サンケイビル」の広告だ。とはいえ、「宿敵」である産経が毎朝、朝刊1面に掲載しているシンボルマークを朝日が掲げるとは‥‥。両社の間で歴史的な“和解”が実現したのか。
そう詮索されてもしかたないほど、朝日と産経は論調で真っ向対立してきた。
特に、従軍慰安婦問題に関しては長らくバトルを展開。朝日が82年に故・吉田清治氏の「強制連行があった」とする主張を掲載。強制連行が事実かのように世界中に広まる中、産経は92年に吉田証言の信憑性に疑義を投げかける。その後、吉田証言の虚偽がしだいに明らかとなる中、朝日は97年に特集記事を掲載。だが、吉田証言については「真偽は確認できない」としたものの、14年にギブアップ。吉田証言に基づいた記事を取り消したのだ。
これがもとで、朝日は部数を激減させ、約740万部あったものが現在では約660万部まで激減。さらに、新聞業界全体の広告収入も06年に1兆円あったが、10年間で4000億円まで下がった。背に腹は代えられず、朝日は憎き「目玉マーク」を掲載したのではないか。何せ朝日の題字下広告の基本料金は149万9000円と高額なのだ。
いや、朝日にだって意地はあるはずだ。現に、その後も両紙は憲法改正や原発再稼働など、事あるごとに正反対の論調を載せている。リベラルの朝日と保守の産経は、現在も火花を散らしているのだ。
ましてや、新聞の題字付近の広告は、業界ではことさら重要視されるという。
全国紙記者が言う。
「産経は昔、題字の脇にジャムの『アヲハタ』の企業広告を、指定席のように常に載せていたことがありました。これは産経が反共主義を唱えていたためで、『赤旗』に対して『青旗』で対抗したのではないかと言われていたほどです」
となれば、ますます広告掲載に至る経緯が謎となる。朝日新聞関係者に疑問をぶつけると、こともなげにこう答えるではないか。
「サンケイビルとはビジネスパートナーですからね。銀座に共同出資しているビルがあるほどです。産経さんと主張が違うからといって、坊主憎けりゃ袈裟まで憎いわけではないです」
一方のサンケイビルにも問い合わせたところ、以下の回答があった。
「企業名の告知に有用だと認識して、広告代理店を通じてお願いしました。日経や読売にも広告を出していますし、朝日にはこれまでも同じ題字下に数回、広告を出しています」
確かに、遡って朝日の紙面をめくると、15年12月にも「目玉マーク」があるではないか。
サンケイビルは同じグループとはいえ、産経とは別会社。あれだけ論戦を交わしてきたのだから産経本体がこの事態を許したのはなぜか。産経新聞関係者が話す。
「朝日とは言論上では戦っているかもしれないけど、実際には朝日の販売店で産経も取り扱ってもらうなど、販売体制で協力してもらっているしね。それに互いになぜか社風は似ていて『自由』を感じるんだよね。右と左の原理主義者同士だから、かえって似てくるのかもしれないね」
論調とビジネスは別と言いたいのだろうが、両紙が過去に繰り広げた論戦が、こうなると急にシラケて見えてきてしまう。