まさかの池ドボン、だ──。
江戸以降の史実で「稀代の悪妻」「悪女」と評された徳川家康の正室、瀬名こと築山殿。その史実に背いて、今年の大河「どうする家康」では、純情可憐な愛妻を有村架純が演じてきた。
7月2日の「はるかに遠い夢」では、とうとう最愛の正室と長男を失う家康の、人生最悪の悲劇が描かれるはずだった。マツジュン家康は、武田家との密通を疑われた瀬名と長男・信康の死罪を回避するため、身代わりを立てて逃がそうと画策。だが瀬名は、己の身代わりとなり死を覚悟して震える少女を家に帰す。佐鳴湖を船を漕ぎやってきた家康は「死ぬな。生きてくれ」とベタなセリフで懇願するが、瀬名を説得できず、瀬名の家臣を連れて船に乗った。ここまでは、先に死んだ信康の最期と併せ、息を飲む展開だったのだが。
瀬名が刃を持ち、自害するところで突如、マツジュンの乗る船のシーンへと切り替わる。マツジュンはボートの上で地団駄を踏んだ挙句、瀬名の家臣を次々と浅瀬の湖に突き落とす。最後はマツジュンも湖にドボン。3人が泥の中をジタバタする様子は「風雲!たけし城」そのものだ。おまけに家康が船に乗って帰っていく方向は「浜松城と逆」と地元の浜松市民、岡崎市民からダメ出しされる始末。
マツジュンが泥だらけになる「風雲!たけし城」から映像が切り替わると、瀬名が手をついて倒れていた。両手で刀を持ち、切腹したはずなのに手をついている。無様だ。大名の正妻としては、あり得ない。
手をついて伏せる瀬名を見て、従者はオロオロするばかり。服部半蔵配下のくの一、大鼠(松本まりか)がやむなく介錯する。「どうする家康」は最初から上半期の最後まで、常にこんな感じで家康も家臣も常にオロオロ、ドタバタして終わった。その理由をNHK関係者が解説する。
「江戸幕府の礎を築いた家康を、今風のZ世代の頼りない青年として描きたかったのかもしれませんが脚本、演出、主演の松本が力不足すぎました。例えば、同じく頼りない後継者で障害があったと言われる、九代将軍・徳川家重。今年の『大奥』では『ドライブ・マイ・カー』でアカデミー賞国際長編映画賞を受賞した三浦透子、大河『八代将軍 吉宗』では中村梅雀が演じましたが、大河ドラマの常連脚本家と2人の演技力あってこそ、視聴者が引き込まれた。『どうする家康』にはマツジュンの目力を魅せるシーンもない。妻子が自害して苦悶する無言の演技もない。セリフ、演出、演技が3拍子揃ってダメだから、間がもたない。情けないことに、間がもつ演技を見せているのは立川談春だけです」
悪妻築山殿を史実に背いてキャラ変更。大河をまさかのラブコメディー仕立てにしたまではいいが、その築山殿亡き後、半年間どうするの、マツジュン。