映画で、菅氏は東電にも責任転嫁をする。それは事故現場と東電本店をつなぐテレビ会議システムの存在だ。菅氏は3月15日に東電本店にみずから乗り込んだ時のことを、こう振り返っている。
「何だ、こんなのがあるんじゃないか、と。何でこんなものがあって24時間サイトとつながっているのに情報が来ないんだ、と」
対策の主体者である東電本店を飛び越えて現場入りした瞬間に、すでに指揮命令系統は破壊されていた。システムの存在を伝えられなかったことよりも、伝えられないようにした自分の非を一切認めることはなかった。その翌日、菅氏は本社殴り込みを、笹森清氏(当時内閣特別顧問)にこう自画自賛している。
「僕はものすごく原子力に詳しい。この問題に詳しいので、よけいに危機感を持って対応してほしいということで東電に乗り込んだ」
今回の上映のあと、当時官房副長官だった福山哲郎氏と石田監督の対談が行われ、福山氏はこう明かした。
「我々はチェルノブイリ型の爆発をするんじゃないかと最初に恐れた」
この発言をもとに、放射線防護学が専門の野口邦和日大准教授が指摘する。
「菅さんは原子力工学科を出たわけでもない。自分が詳しいなどと思うのが錯覚そのものですよ。チェルノブイリと福島では炉型が違うし、事故の原因も違います。本当に詳しければ同じ爆発が起こるとは考えないでしょう」
対談後、ある女性からこんな質問が福山氏に投げかけられた。
「3号炉は(実は)核爆発じゃないんですか?」
今年5月に問題になった漫画「美味しんぼ」(小学館)の鼻血騒動に匹敵するようなトンデモ質問である。
「情けない話です。脱原発、反原発の一部の人が事故のより深刻な状況を望むというのは間違っています。福島県は危険で、人も住めない地域でなければならない、という考えに通じています。『福島』をスケープゴートにするような主張や運動に未来はないのです」(野口氏)
映画では原発推進派の澤田哲生氏が登場し、こう主張するのだ。
「(事故)リスクという概念で自動車事故と原発事故を一緒にするなというのはよくわかります、気持ちは。でもそれを一緒にするのが科学であり技術なんです」
では、科学に基づいた原発批判とは何か──。
「アメリカ、旧ソ連2つの原発先進国が大事故を起こしています。原発は十分に安全ではないのです。もう1つは高レベル核廃棄物の安全な処分の見通しが立っていないこと。3つ目は軍事利用転用の歯止めがきかないこと。最後にテロから防ぐ手段がないことです。福島の事故をきっかけに、無知では済まなくなりました。核や放射能に対する正しい知識を得る必要があるでしょう」(野口氏)
吉田調書では、菅氏に対する故吉田氏の印象も明らかになった。それは、
「バカ野郎」
というものだった──。