それは三連休の中日、7月16日の昼下がりだった。有線放送にオヤッと手を止めた人は多かったのではないか。
昭和レトロを売りにした純喫茶でアイスコーヒーを飲んでいると、猛暑には不似合いの稲垣潤一「クリスマスキャロルの頃には」が流れてきたのだ。
この曲は広瀬香美がカバーし、Z世代にも広く知られているが、冷房の効いた店内でアイスコーヒーを飲みながら聴くのは初めてだった。この季節外れのクリスマスソングが流れたタイミングがまた意味深で、前週の放送での発言が物議を醸した「山下達郎のサンデー・ソングブック」(TOKYO FM・JFN系列)の放送が始まる前だったのだ。
性暴力が報じられているジャニー喜多川氏を礼賛し、尊敬すると語った山下は、
「『忖度』あるいは『長いものに巻かれている』と、そのように解釈されるのであれば、それでもかまいません。きっとそういう方々には、私の音楽は不要でしょう」
この余計なひと言が、ジャニーズ事務所の性加害報道に無関心な中高年層にまで反発を招くことになったのだ。
SNSでは「#嫌なら聴くな」がトレンド入りし、ネット掲示板には「今年の年末、それでもJR東海とケンタッキーフライドチキンは山下達郎夫妻の曲を採用するのか」と企業へのクレームまで書き込まれた。そう、山下の名曲「クリスマス・イブ」は昭和、平成、令和と長らく、「クリスマスソングの王道」だったのだ。ついこの間までは。
気だるい夏の午後、ガラス窓の向こう側に照りつける太陽と青空に合わせるBGMなら、目黒蓮と中条あやみが出演する「午後の紅茶」のCMソングにもなっている山下の新曲「Sync Of Summer」が似合っている。
山下の発言にカチンときた人が、クリスマスソングを歌うのは山下夫妻だけではないと自己主張するため、季節外れの「クリスマスキャロルの頃には」を有線放送でリクエストしたのか。あるいは稲垣のファンがリクエストしたのか。いや、単なる偶発的なものか。もちろん、いい曲はいつ聴いても心地いい。
夏の怪奇現象に接しても、外気温は36度。さすがに汗が引くことはなかった。
(那須優子)