今どき、珍しい投げたがりやな。DeNAのバウアーがオールスターのプラス1投票に選ばれて大喜びしていた。6月は4戦全勝で月間MVP。熱い中でも中4日でどんどん投げて、オールスターも、ファンに自身への投票を呼びかけた。中6日の先発で6回を投げただけで満足している投手が多い中で、いくらでも投げたがる姿勢は立派。これぞプロのあるべき姿やと思うで。
2020年にはリーグで最も活躍した投手に贈られるサイ・ヤング賞を獲得し、鳴り物入りでDeNAに入団。投げているボール自体もすごいけど、いちばん目を引くのはマウンドへの執念、闘争心やな。日本の投手も見習ってほしい。
バウアーの後ろで守る野手は緊張感があるはず。7月1日の中日戦では、挟殺プレーに失敗した内野陣の拙守に激昂。マウンドで周囲がドン引きするぐらい吠えまくった。野球にミスは付きものとはいえ、投手からすると気が抜けたようなミスに見えてしまうことがある。「俺が必死に投げているのにお前らやる気あるのか」と、気持ちが抑えきれなかったんやろね。偉いのは感情を爆発させた後、ボールにも怒りが乗り移り、それまで以上にすごい球を投げていた。
野球少年のように投げることが好きやし、勝つことが好き。勝ち投手の権利を得て降板し、リリーフ陣が逆転されることも嫌なんやろね。いつも最後まで投げたがる。勝ち星は打線との兼ね合いもあるから防御率にこだわる、という投手の方がおかしい。やっぱり投手は白星を挙げてナンボやと思う。相手より1点でも少なく抑えるのが先発投手の仕事で、わずか1失点でも負けの責任を負わないといけない。最近の野球は投手が分業制となり、6回自責点3を評価する「クオリティスタート」という言葉がある。僕から言わしたら中6日も空けて、6回で降板なんてまったく評価できない。特にエースといわれる投手は最後まで投げることにこだわってほしい。
昔の投手はまず完全試合を目指して、ヒット1本打たれたら完封、次に完投という目標を常に持ってマウンドに上がっていた。今、そういう投手がどれほどおるかな。逆に「まずは5回を投げて、試合を壊さないように」なんて低い志の投手ばかりかもしれん。
投手の肩は消耗品と言われるし、僕みたいな考え方は古いとされるのかもしれない。でも、いつも思う。十分な登板間隔を空けて投げているのに、何年も続けて働ける先発投手が少なすぎる。キャンプでの投げ込みも少ないし、高校時代からあまり投げ込んでいない投手が多いのと違うかな。
阪急のエース・山田久志もそうやったけど、昔のエース格の投手は特に優勝争いの最中など、完投した翌日に抑え投手として登板することも珍しくなかった。それで故障するかと言われれば、そんなことはない。キャンプの投げ込みなどで、理にかなった投げ方が自然と身についているから故障が少なかった。
バウアーは1月生まれの32歳。すっかりベテラン投手になってしまった巨人の菅野と実は1歳しか変わらない。日本の若い投手、特に将来のメジャー挑戦を考えているような投手は過保護な登板に慣れず「中4日で行きますよ」と言うぐらいになってほしい。優勝争い大詰めになった時の、バウアーのアドレナリン全開の投球が楽しみや。
福本豊(ふくもと・ゆたか):1968年に阪急に入団し、通算2543安打、1065盗塁。引退後はオリックスと阪神で打撃コチ、2軍監督などを歴任。2002年、野球殿堂入り。現在はサンテレビ、ABCラジオ、スポーツ報知で解説。