阪神の独走ムードが漂っていると、このコラムで書いた途端、勢いが加速した。7連勝で黒星ひとつ挟んで破竹の9連勝。5月は月間勝利数の球団タイ記録となる19勝をマークした。岡田監督は笑いが止まらん。やることなすこと、すべてうまくいっている。いやむしろ、普通のことしかしていない。なのに、相手が警戒しすぎて勝手にこけてくれるケースが増えている。首位で迎えたチームが交流戦でリズムを崩すことが何度もあったが、今年の阪神に関してはその可能性は低い。
ところで、僕からしたら「もっと走れるやろ」と思うけど、相手バッテリーにとってはよほど脅威なんやろな。交流戦前のセ・リーグ盗塁数は阪神の近本、中野、佐藤輝、中日・岡林が5でトップタイ。その数字自体はともかく、阪神の3人が足でプレッシャーをかけている。牽制やクイックやら、投手に余計なことを考えさせて、打者に対する集中力をそいでいる。打線というのは、こういう目に見えない部分がほんまに大事なんや。
巨人のチーム盗塁トップの門脇の3なんて、1日で追いつける数字。だから打線がつながらない。狭い東京ドームを本拠地にしているからといって、ホームランでドカン、ドカンというのを目指しすぎ。20~30本打てる打者をずらりと並べているならまだしも、一発量産を期待できるのは、岡本と中田ぐらい。それでは阪神のような安定した戦いはできない。点が取れない時は、足でかき回したり、プレッシャーをかけて何とかしないと。巨人に限らず他球団も一緒。特に中日なんてもっと走れるはずや。
トップを争う阪神の3人も、シーズン約3分の1を消化しての5盗塁で納得していたらアカン。このままのペースでいったら20以下の盗塁王が誕生してしまうかもしれん。投手の最高勝率のタイトルはシーズン13勝以上が条件となっている。盗塁王も30未満のタイトルは認めたくない。1カード3試合に1つのペースでも48。決して難しいとは思わん。パ・リーグは交流戦前の時点でトップのソフトバンク・周東が13。せめてこれぐらいのペースで稼いでほしい。周東に引っ張られるようにパ・リーグでは2ケタ盗塁が何人かいてる。
その中でひとり叱りたいのが日本ハムの五十幡。5月序盤で一番乗りで10盗塁をマークしていながら、左太ももの肉離れで出場選手登録を抹消された。足が武器の選手やのに自覚が足らん。20年ドラフトの入団時に僕のプロ野球シーズン最多記録106を目標にすると宣言してくれたので、応援してきた選手。ずっとケガに泣いてきて、今年の活躍を喜んでいたのにガックリきた。復帰したら2度と離脱しないようにケアの仕方を考えなアカン。
野球選手がプロで稼げる最低条件は、ケガをしないこと。本人だけでなく、チームにも迷惑がかかる。今年の阪神の強さは、それこそ主力の体の強さも要因になっている。近本、中野、大山、佐藤輝が打順と守備を固定され、ここまで全試合に出場している。他球団の選手がコンディション不良とか、張り、違和感とワケのわからない理由で休むので、余計に頼もしい。調子を崩そうが何しようが主力が試合に出続けている限り、岡田監督の言うところの「アレ」に近づく。他球団は意地を見せて、早々とリーグの灯を消さないようにしてほしい。
福本豊(ふくもと・ゆたか):1968年に阪急に入団し、通算2543安打、1065盗塁。引退後はオリックスと阪神で打撃コーチ、2軍監督などを歴任。2002年、野球殿堂入り。現在はサンテレビ、ABCラジオ、スポーツ報知で解説。