こうした岸田内閣や行政の強硬姿勢に対して、粛々と応じているかに見える旧統一教会だが、実際は徹底抗戦の構えを崩していない。
同教団の日本教会・田中富広会長は今年3月にインタビューに応じ、「質問権そのものが違法で完全に答えない道もあった」「(解散命令が請求されれれば)とことん裁判に臨む。引くことはない」と述べて対決姿勢を示した。
また、教祖である故・文鮮明氏の妻で、教団トップの韓鶴子総裁は、教団の聖地とする韓国・清平で行われた会合で、日本の教団幹部ら約1200人の参加者に向けて、
「岸田や日本の政治家をここに呼びつけて、教育を受けさせなさい」
と言い放っている。裁判所の審理で解散が認められるまでには長い時間がかかることは明白で、問題解決のためには一刻も早く解散命令請求を出すことが必須だろう。
くしくも今は、安倍元総理の一周忌直後という、国民の関心が最も高まるタイミングだ。あとは岸田総理がゴーサインを出すだけなのだが、鈴木氏はこうも言う。
「岸田総理の旧統一教会への対応を見ると、党内の状況を見て慎重に動く傾向があると思います。仮に今秋とも言われる解散総選挙が来年以降に先延ばしになれば、請求も見送られるかもしれません。選挙前にやった方が支持率アップに効果的なことは間違いないですからね。文化庁職員の頑張りが報われるかどうか、政局に左右されるべきではないと思うのですが‥‥」
優柔不断で日和見主義とも言われる岸田総理だけに、「一抹の不安」はぬぐえそうもないが。
続く二の矢の「訪朝」と、それに伴う拉致問題の進展については、さらにタイムリミットが近づいている。
今年5月、北朝鮮拉致被害者家族の集会に出席した岸田総理は、
「私自身、我が国自身が主体的に動き、トップ同士の関係を構築することが極めて重要。首脳会談を早期に実現すべく、私直轄のハイレベル協議を行っていきたい」
と宣言した。しかし現状では具体的な動きはないままだ。
拉致被害者の横田めぐみさんの母、早紀江さん(87)は7月に取材を受け、今年4月に入院するなど体調不良に陥っていることを明かしている。早紀江さんの、
「あと2年だけ生かしてほしい」
という切実な祈りに応えるためにも、もはや時間的猶予はない。
朝鮮半島の情勢に詳しいジャーナリスト・五味洋治氏が言う。
「02年に当時の小泉純一郎総理の訪朝が実現した時には、北朝鮮の軍幹部とされる『ミスターX』と、日本の外交官・田中均氏が、水面下で2年以上、交渉を行っていました。そのようなキーマンをもってしても長期間の下準備がなければ成功しなかっただけに、岸田総理が『今から本腰を入れる』と言ってもすぐに『はい、やりましょう』とはなりません。現状は、日朝関係改善の糸口をつかもうとしている段階でしょう」
ただし、ゼロと1では大きく違うことも確かだ。硬軟織り交ぜて北朝鮮問題に取り組んだ安倍元総理の退任後は、新型コロナウイルスのパンデミック(世界的大流行)もあったことで、日朝間の外交チャンネルはほぼ閉じていたに等しい。五味氏いわく、「それだけに、国連から経済制裁を受ける北朝鮮にとっても、日本との交渉再開は自国の状況を打破する見逃せないチャンス」なのだという。