「黒船」が太平の眠りを覚ますのか。サイ・ヤング賞投手、DeNAトレバー・バウアーの、時代に逆行する珍発言が、球界内で論議を巻き越している。
バウアーは8月9日の中日戦に中4日で先発し、7回108球を投げて無失点。10三振を奪う好投で、8勝目を挙げた。圧巻の投球だったが、周囲を驚かせたのが、お立ち台での「120球でも140球でも200球でも問題なく投げられるよ」という発言だった。メジャーだけでなく、昨今は日本球界でも「肩は消耗品」「投手分業制」の考え方が定着し、先発投手は100球を超えた時点で交代を命じられるケースが目立っている。もちろんリップサービスの面はあろうが、この200球を期待する声もあるのだ。スポーツ紙ベテラン遊軍記者は、次のように話す。
「日本球界で投手の最高タイトルである沢村賞の選考に、一石を投じることになります。沢村賞の選考基準の中には『完投数』がある。とはいえ、先発で100球ぐらいしか投げないのであれば、完投は難しい。昨年、一作年と連続で沢村賞を受賞したオリックスの山本由伸でも、完投数はそれぞれ4試合と6試合。完投数はもはや、有名無実化していますね」
故障防止の観点からすれば通常、球数を多く投げることで、そのリスクは高くなる。だが、野球の華のひとつである三振を多く取るためには当然、打たせてとる投球よりも球数が増えるのは仕方がない。
メジャー時代のバウアーは、通算で222試合(先発は212)登板し、2度の127球が最多。だが、120球以上は9試合あり、インディアンス(現ガーディアンズ)とレッズに所属した2019年には5試合も。日本では、7月6日のヤクルト戦で、それを超え128球で完投勝利を飾り、「中3日でもいい」と豪語するタフネスぶりを見せた。
過去、1試合での投球数では、東映(現・日本ハム)に在籍した1964年に、米川泰夫が22回で264球を投げたのが最多記録。9回に限っていえば、日本ハムの木田勇が1983年9月21日の西武戦で投じた209球だ。ある意味、これらは破ってはいけないアンタッチャブル・レコードのひとつだろう。それでも、
「メジャーのようになった日本野球を物足りなく思っているオールド野球ファンは、まだ一定数はいる。時代に逆らうような大記録、珍記録を見てみたいでしょうね」(前出・ベテラン遊軍記者)
バウアーがそれを実現するかどうか…。
(阿部勝彦)