新型コロナの次は「ペスト」襲来か。
8月初旬、中国北部の内モンゴル自治区バヤンノールと、モンゴルの首都ウランバートルで、ペスト患者が相次いで報告された。新華社通信の8月5日付報道は、次のように伝えている。
〈今月4日、腺ペストが疑われる症例が発見されたと、市当局に連絡があったという。バヤンノールの地元当局は5日までに、4段階のうち上から2番目に高い、レベル3の警戒警報を発令。当局のレベル3の警戒体制は年内いっぱい続く」
どうも尋常ではないのだ。この報道の1週間後、最初のペスト患者の夫と子供も、ペストを発症したという。
中国当局が今冬まで警戒を続けるのは「ペスト菌に感染した患者の血を吸ったノミやシラミ」を介して、家畜や人間に次々と広がるからだ。
14世紀、当時ヨーロッパ全体の人口1億人のうち、2500万人から3500万人がペストで死亡したとされる。十字軍の船にペスト菌を持ったネズミが侵入して感染を広げたと思われてきたが、当時のペスト患者の遺体を調査した結果、シラミを介した「ヒト・ヒト感染」説が今では有力になっている。
抗生物質が普及した今でも、致死率は30~60%。2014年には国立感染症研究所が「米国コロラド州で犬・ヒト・ヒトの感染伝播の可能性がある、ペストのアウトブレイク」が起きたと、注意喚起している。
さらに心配なのが、中国だけでなくモンゴルでもペストが報告されていることだ。朝鮮日報とロイター通信によると、野生の野ネズミ「マーモット」を捕獲して食べた3人が、ペストを発症したという。TBS日曜劇場「VIVANT」のロケ地でもあり、現地人俳優の好演でにわかに注目されるモンゴル。この時期はモンゴル観光のハイシーズンだが、モンゴルを訪れる日本人観光客は念のため、虫除けや殺虫剤を持参した方がよさそうだ。
8月18日には、渡航が解禁された中国からの団体旅行の第一陣が、関西空港に到着したばかり。猛暑の今年はこれまでに、中国南部や沖縄といった亜熱帯に生息する南京虫(トコジラミ)が本州に持ち込まれ、南京虫に刺されるという例年にない被害が相次いでいる。
その南京虫に続いて、ペスト菌を持ったノミやシラミが日本に持ち込まれたら、都市部のネズミやハクビシン、地方のイノシシやシカから、人やペット、家畜に広がることは避けられない。高齢化で猟師の後継者がいないからだ。
しかも日本は新型コロナ以降、中国人観光客のクスリ爆買いよる慢性的な処方薬不足が続いている。中国人による爆買いで浮かれるのはいいが、その代償として、ペストに有効な抗生物質まで買い占められることも覚悟しなければならない。
(那須優子/医療ジャーナリスト)