プラスチックは20世紀最大の発明といわれるが、その手軽さもあり、この70年ほどでその数は200倍近くに増加。近年、海洋に流出するプラスチックごみは世界で800万トンもあるという。各国がこぞってゴミ処理問題に知恵を絞っていることは、よく知られる話だ。
そんな中、スウェーデンの研究者らが、プラスチックを食べる酵素が3万種類いると発表したことはご存じだろうか。世界の科学者がどよめいた、画期的な研究だからだ。科学ジャーナリストが解説する。
「アメリカのイェール大学の研究チームが、アマゾンの熱帯雨林でプラスチックを食べて成長する珍しいキノコを発見した。それが2011年でした。2015年には米スタンフォード大学の研究グループが、発泡スチロールを消化することできるミールワーム(腸内に特殊な酵素を持つ、ゴミムシダマシ科の幼虫)を発見し、大きな話題になりました。というのも、発泡スチロールは密度が非常に高く非生分解性で、プラスチックの中でも処分に時間とコストがかかる、厄介な素材なのです。発砲スチロールを効率的かつ安全に処分する手段が見つかれば、この分野で大きな第一歩となることは間違いない。そのミールワームの消化液を摘出する研究が進められ、発泡スチロールの大量処分に利用可能な手段はないのかと、模索が続いています」
2016年には京都工芸繊維大学の研究チームが、ポリエチレン・テレフタレートを栄養源として育つ微生物を発見したのだが、
「プラスチックを食べる細菌の研究はまさに日進月歩で、2020年にはアメリカの研究チームが、この微生物よりも6倍速く分解可能な酵素を発見した、と発表しています。そして2021年、スウェーデンの研究チームが、地球上に少なくとも10種類のプラスチックを分解できる3万種類の酵素が存在するとの報告書を出したことで、衝撃が走ったというわけです」(前出・科学ジャーナリスト)
では世界中で研究が進められる中、いまだにプラスチックを分解したり食べたりする微生物やスーパーワームが商業化されないのは、なぜなのか。
「理由のひとつが、コストや手間の問題。そしてもうひとつが、そうした微生物や酵素を増やすことにより、既存の微生物への悪影響、さらに異なる環境下で微生物が効果を発揮できるのか、などの疑問点があるからです。今後の研究によってそれがクリアされれば、商業化が進むことは間違いないでしょう」(前出・科学ジャーナリスト)
プラスチックを食べる細菌の実用化が、ゴミ問題の救世主となることは間違いない。期待は膨らむばかりなのである。
(ジョン・ドゥ)